日常の崩れ

写真怪談

毎咳後の薬

風邪薬は、飲む前から一つずつ「服用済み」になっていく。来週の出張まで、先に処方されてしまった男の話。
写真怪談

紙ナプキンの熱

風邪気味の仕事帰り、スタミナ丼を食べたら身体は楽になった。ただ、カウンターの紙ナプキンだけが、代わりに熱を持ちはじめた。
写真怪談

半額の重さ

閉店間際のスーパーで貼られる半額シールは、何を半分にしているのか。
写真怪談

五百ミリの欠番

終電帰りに買った一本の缶は、飲む前から少しずつ“減って”いた。
写真怪談

区域内の白い人

昼の街路、白いシートをかけた荷台のそばで、誰も乗せていないはずの赤いケースがひとつ多く鳴り始める。
写真怪談

鉢底の息

花屋の棚に並ぶ鉢植えの下で、水ではないものが静かに息を吸っていた。
写真怪談

手すりの糸くず

昼休みの公園に掛けられた一枚のタオルは、落とし物ではなく、少しずつほどけて何かを呼び戻していた。
写真怪談

階段の喉

青空の下にあるただの階段で、手すりが手首を噛み、壁の赤い落書きが“次の顔”を待っていた。
ウラシリ怪談

配布床

津波ではない水が、避難所の床下から名簿を濡らしていく――揺れのあとに増えた空欄は、誰のためのものだったのでしょう。
写真怪談

分別される庭

片づけるはずだった裏庭の廃材は、いつからか人間のほうを分別しはじめていた。
写真怪談

撤去済みの灯り

撤去したはずの蛍光灯本体が、まだどこかの部屋を照らしている――路地に積まれた廃材から始まる、静かな撤去の怪異。
写真怪談

未乾きの路地

都心の真新しい路地で、足音だけが先に白いコンクリートへ刻まれていく。
写真怪談

赤信号の分岐

雨に濡れた線路の奥で、赤信号がひとつ多く映っている――それは、存在しない分岐へ出発を待つものの灯りだった。
写真怪談

水溜まりの靴

雨の駅前に残されたのは、足跡ではなく、床そのものが歩き出すための目印だった。
写真怪談

四十五リットルの首

朝の歩道に並んでいた透明なゴミ袋。その中の首は、回収されるものではなく、まだ誰かを選んでいる途中だった。
写真怪談

四十五リットルの皮

雨の日の歩道に並ぶ白い袋。その中身は、ごみではなく、誰かから少しずつ剥がれ落ちたものだった。
写真怪談

駐輪場の余白

雑居ビルかマンションかも分からない古い建物の一階で、誰も停めていないはずの場所だけが、少しずつ埋まっていく。
写真怪談

梁の間の人影

ビルの隙間に渡る二本の梁。その上を、昼の光の中で人ではない形が少しずつ降りてくる。