居酒屋

晩酌怪談

釣り銭口の出口

飲み終えた夜、出口の階段を降りるたび、自販機の釣り銭口で硬貨が増えていく。
晩酌怪談

菊が焼けるまで

焼き鳥を待つあいだ、マグロブツに添えられた小さな菊だけが、焼き場の方を向きはじめた。
写真怪談

裏口の白い湯

洗い終えたはずの鍋の底に、白いものだけが戻ってくる――裏口に残された輪の正体とは。
晩酌怪談

醤油だまりの影

居酒屋のカウンター、瓶ビールの空きグラス、醤油を垂らしたタルタル——右隣の席には、食べ終わるまで帰らない薄い人影が座っていた。
晩酌怪談

夜勘定

昼の一杯のはずだったのに、伝票にはまだ来ていないはずの「今夜の自分」の会計が先に印字されていた。
晩酌怪談

網入りガラスの遅い影

休店日の居酒屋、その窓に並ぶ緑の瓶と街灯の反射――映り込みのはずの影だけが、なぜか“遅れて”残った。
晩酌怪談

二度目の正午

冬の正午、空っぽのテラス席にだけ“夕方の賑わい”が滲み出す——その路地は、同じ時間を二度目として差し出してくる。
晩酌怪談

塩の数字

“いつもの店”の“いつもの卓上”に、戻ってはいけない年が混ざっていた——。
晩酌怪談

忘年の席数

駅前の居酒屋、普通の忘年会の写真。顔は写っていないのに、翌朝から「人数」だけが合わなくなる。
晩酌怪談

相席の締め

相席に通された席で、すでに潰れていた見知らぬ客——その「締め」だけが、なぜかこちらに回ってきた。
晩酌怪談

赤丸の値札が消えない夕方

十二月の午後四時、居酒屋の軒先で“数え直せない”ものが増えていく——赤丸のメニューが滲むとき、棚の並びも変わりはじめる。
晩酌怪談

二倍の氷が鳴る席

氷だけが先に出てくる、誰も座らない席。二拍ずつ鳴る音の正体を見た夜、ジョッキの内側にこちらを覗く“目”があった。
晩酌怪談

笑い顔の角度

「笑い顔が合う角度」を探して近づいてくる夜の席。ずれた“もう一人の笑い”が、あなたの乾杯の拍を待っている。
晩酌怪談

瓶の数え方

毎朝、瓶を数え、同じ三人の足音で時刻を知る——ある朝、一本だけ増えた。数が合った翌日、路地は静かなままだ。
晩酌怪談

縄暖簾(なわのれん)の五番目

縄暖簾が一本増える夜、テーブルの空席は必ず誰かで満ちる――そして、帰るときは髪を一本置いていけという。
晩酌怪談

麦穂の影、揺れる晩酌

カウンター越しに揺れる麦穂。その影が、ビールの泡よりも長く残っていた――。
晩酌怪談

イカ刺しと“おやじ生き”

「おやじ生きって、なんですか?」 その問いに、女将はゆっくりと笑った。 ――息を入れる料理よ、と。
晩酌怪談

最後の一個

祭りの帰り、ふと立ち寄った居酒屋。 皿の上に残った「最後の一個」は、誰が食べたのか。