時のひずみ

時の流れがわずかに狂うだけで、見慣れた景色も異様なものへと変わります。

過去と現在、あるいは未来の境界にひそむ異変を描いた怪談を集めています。

ウラシリ怪談

まだ誰も乗っていないエスカレーター

まだ誰も乗っていないはずのエスカレーター。その新品の手すりには、二人の手が何度も触れたような跡が残されていました。新しい改札の開通を待つ駅のホームで、誰かが一足先に歩き始めているのでしょうか……。
ウラシリ怪談

宛先のない約束

住宅街の分かれ道に立つ、赤い郵便ポストとカーブミラー。撤去が決まったそのポストには、宛名も切手もない手紙が残されていました。そして、誰もいないはずの交差点の鏡には、あるはずのない懐かしい光景が映り始めます。届かなかった約束をめぐる、静かで不思議な現代怪談。
写真怪談

眠りの通る窓

窓際では二人が眠り、ホームでは大勢の人が行き交っていた。異変が起きたのは、その黒い窓枠の内側だけだった。
ウラシリ怪談

灰の年齢欄

届いた健康調査の封筒には、ひとり分だけ、まだ生まれていないはずの回答欄が混ざっていました。
ウラシリ怪談

別れを言わない訪問者

亡くなった時刻に、遠く離れた家族の前へ現れる――百年以上前、研究者たちはその「偶然」を17,000人に尋ねました。では、最後に残されたものまで説明できるのでしょうか。
写真怪談

水位線

寺町の奥で守られてきた、小さな湧水の池。古い管理人たちは、九月一日だけ「昼を過ぎるまで岸に触るな」と言い残していた。震災のあとに移ってきた寺と、池が毎年測り直しているものとは――。
ウラシリ怪談

二億回の向こう側の椅子

九十四歳の祖母と孫が、十年かけて残してきた何気ない日常。二億回を超えて見られたその映像の片隅で、“まだ会っていない誰か”の椅子だけが、少しずつ近づいていました。
ウラシリ怪談

西へ二十キロの片づけ

西へ進む台風の夜、空になった実家では、片づけたものが東の部屋から順番に元の場所へ戻り始めました。
写真怪談

二秒先の寝返り

電車の揺れより二秒早く身体を傾ける、顔を伏せた女。その寝姿を見続けた乗客の日常に、奇妙な「遅れ」が入り込み始める。
写真怪談

折り返しの内側

四階建ての吹き抜けで、誰もいない階段の照明が一周する。その夜から、住人たちの玄関は「別の踊り場」に現れ始めた。
ウラシリ怪談

十三歳の外側

十二歳までは、子どもだけで入れる広場。けれど閉場前、柵の内側には、とうに大人になった父親の「十二歳」が残っていました。
写真怪談

卒業する短冊

七夕飾りに吊るされた願いごとは、いつから“叶ったあと”の言葉に変わっていたのか。
写真怪談

空を塞ぐ環

頭上を巻く高速道路の下で、橋脚の影だけが輪になって縮みはじめる。
写真怪談

毎咳後の薬

風邪薬は、飲む前から一つずつ「服用済み」になっていく。来週の出張まで、先に処方されてしまった男の話。
写真怪談

半額の重さ

閉店間際のスーパーで貼られる半額シールは、何を半分にしているのか。
ウラシリ怪談

三時間以内の線

避難所の床に、まだ来ていないはずの水位だけが先に残っていたそうです。
ウラシリ怪談

配布床

津波ではない水が、避難所の床下から名簿を濡らしていく――揺れのあとに増えた空欄は、誰のためのものだったのでしょう。
写真怪談

赤信号の分岐

雨に濡れた線路の奥で、赤信号がひとつ多く映っている――それは、存在しない分岐へ出発を待つものの灯りだった。