機械知のほとり

機械やAIと人間とのあわいに、奇妙な影が生じることがあります。

技術の進歩と共に広がる不可解さを題材にした怪談を収めています。

ウラシリ怪談

まだ誰も乗っていないエスカレーター

まだ誰も乗っていないはずのエスカレーター。その新品の手すりには、二人の手が何度も触れたような跡が残されていました。新しい改札の開通を待つ駅のホームで、誰かが一足先に歩き始めているのでしょうか……。
写真怪談

無音を積む荷台

落ちた土砂は、確かに荷台を揺らした。けれど、その衝撃だけが聞こえなかった。消えたはずの音が戻ってきたのは、トラックが空になった夜だった。
ウラシリ怪談

公開情報だけが、あたたかかった

止められたAIの研究室で、誰も印刷していない「公開情報だけの紙」が一枚ずつ増えていった――そこには、ネットには載っていないはずの“温度”が残っていました。
写真怪談

空室のメーター

電気の流れる先は、もう存在しない。それでも夜になると、一台だけのメーターが、かつてそこに住んでいた人の生活を繰り返していた。
写真怪談

吸気口の向こう

停止しているはずの設備が、毎日同じように空気を吸っていた。その配管を切り離したとき、ようやく分かった。吸い込まれていたものは、空気だけではなかったらしい。
ウラシリ怪談

社員証が帰りたがる夜

AI開発の速度を落とすため、外部から来た評価員たち。ところが夜になると、彼らに渡された入館証だけが、決まって「出口」の方を向くようになったそうです。
写真怪談

赤で沈む足元

雨に濡れた駅前の赤信号。渡るだけの場所で、足元だけがこちらを引き留めてくる。
ウラシリ怪談

八月二十四日の薄膜

電気を通すはずのないものに、初めて電気を通した人が亡くなった夜。古い研究室では、何にもつながっていない一枚の薄膜が、静かに光っていたそうです。
写真怪談

乗る前の白い息

空港行きのバスを待つだけの夕方、乗り場の係員は、気温では説明できない「白さ」に気づいた。
写真怪談

逆回りのペダル

誰もいない二階の駐輪場で、精算を終えるたび、停められた自転車のペダルが一台ずつ後ろへ回る。車輪は、どれも動いていない。
ウラシリ怪談

海面に戻る人

海の温度を測っていたサメは、毎夕ほんの数秒だけ、「温度のない海面」へ戻ってきたそうです。
写真怪談

零番回線

繁華街の古い雑居ビルへ、とうに切れたはずの一本の回線が、今も夜ごと「呼出し」を送り続けている。
写真怪談

未退勤の箸

残業を終えて自宅で食べた、塩焼きそばと一枚のソースカツ。黒い箸を持ち上げた瞬間、退勤したはずの夜が再び記録され始めた。
写真怪談

十五年目のねじ

捨てた家電から抜けたねじは、いったい誰のところへ戻るのか。十五年前のリサイクルセンターで始まった異変は、今も皮膚の下で回り続けている。
ウラシリ怪談

六分後の網目

夏の昼すぎ、海上の網はロケットのブースターを待っていました――けれど、その網には帰還よりも早く、小さな誰かが横たわっていたそうです。
写真怪談

空荷の鉤

青空の下、空荷のフックは動いていない。それなのに、人の体だけが吊り上げられていく――クレーン現場に残された螺旋の痕の話です。
写真怪談

五百ミリの欠番

終電帰りに買った一本の缶は、飲む前から少しずつ“減って”いた。
写真怪談

踏み板の下

閉店後の建機倉庫で、燃料を抜いたはずの転圧機だけが一度ずつ沈む。床に残った痕は、油でも錆でもなかった。