機械知のほとり

機械やAIと人間とのあわいに、奇妙な影が生じることがあります。

技術の進歩と共に広がる不可解さを題材にした怪談を収めています。

写真怪談

十五年目のねじ

捨てた家電から抜けたねじは、いったい誰のところへ戻るのか。十五年前のリサイクルセンターで始まった異変は、今も皮膚の下で回り続けている。
ウラシリ怪談

六分後の網目

夏の昼すぎ、海上の網はロケットのブースターを待っていました――けれど、その網には帰還よりも早く、小さな誰かが横たわっていたそうです。
写真怪談

空荷の鉤

青空の下、空荷のフックは動いていない。それなのに、人の体だけが吊り上げられていく――クレーン現場に残された螺旋の痕の話です。
写真怪談

五百ミリの欠番

終電帰りに買った一本の缶は、飲む前から少しずつ“減って”いた。
写真怪談

踏み板の下

閉店後の建機倉庫で、燃料を抜いたはずの転圧機だけが一度ずつ沈む。床に残った痕は、油でも錆でもなかった。
写真怪談

撤去済みの灯り

撤去したはずの蛍光灯本体が、まだどこかの部屋を照らしている――路地に積まれた廃材から始まる、静かな撤去の怪異。
写真怪談

赤信号の分岐

雨に濡れた線路の奥で、赤信号がひとつ多く映っている――それは、存在しない分岐へ出発を待つものの灯りだった。
写真怪談

すすぎの置き場

放置された洗濯機の群れは、捨てられたのではなく、まだ何かをすすぎ続けていた。
写真怪談

赤信号の上

都心の夜、赤信号は地上の車だけを止めているわけではなかった。
写真怪談

掌の送り状

いくつもの線路を見下ろす歩道橋で、掌の線だけが送り状の押印欄として失われていく。
写真怪談

未体験の充電

店先の充電箱は、スマホではなく、そこに置いた人の“残り”を満たしていく。
写真怪談

拭く人を見た

朝の通勤時間、専門学校の校舎前でビルの窓を拭く作業員を一度だけ見上げた。そのガラスの中で、こちらの人々だけが全員、見てはいけない場所を見上げていた。
写真怪談

桁裏の車列

高架の裏を、車体のないライトだけが走っていく。通り過ぎたあと、歩道ではなく金網にタイヤの跡が残っていた。
ウラシリ怪談

千五百二十一番目の小間

存在しないはずの小間番号だけが、来場証の裏に薄く浮かんでいたそうです。
晩酌怪談

釣り銭口の出口

飲み終えた夜、出口の階段を降りるたび、自販機の釣り銭口で硬貨が増えていく。
写真怪談

出発済の信号

赤信号が点いたのは、列車を止めるためではなく、すでに出発してしまった何かを記録するためだったのかもしれません。
写真怪談

縞に読まれる朝

朝のオフィス街で、誰もが同じ方向へ歩いている――その足元の縞だけが、人を静かに読み取っていた。
写真怪談

白い配管の吸い跡

昼の外壁に這う白い配管は、排水ではなく、街の何かを静かに吸い上げていた。