十四時の車間

ウラシリ怪談

五月五日の火曜・祝日、朝のニュースでは、連休最終日に近い混雑の話ばかりが流れていたそうです。

新幹線や在来線の駅は朝から人で埋まり、高速道路の上り線も午後には各地で長い渋滞になる。とくに山あいを抜ける区間では、十四時ごろに最大四十キロ、通常より五十六分ほど余計にかかる見込みだと伝えられていました。

その数字を見て、ある一家は、昼前に出れば少しは混雑を避けられるかもしれないと考えたそうです。

けれど山あいを抜けるあたりで、車列はほとんど止まりました。

助手席の母親が時計を見たのは、十四時ちょうどだったそうです。後部座席の子どもが、窓に額をつけて、「うしろの車、さっきもいた」と言いました。

渋滞なら同じ車が後ろにいるのは当たり前です。父親もそう答えかけたようです。ただ、その子が指さした先にいたのは、同じ色、同じ汚れ、同じ屋根の荷物を積んだ車でした。

つまり、自分たちの車だったのだといいます。

バックミラーに映る後続車の運転席には、父親と同じ姿勢でハンドルを握る男がいました。助手席には母親と同じ横顔。後部座席の窓には、こちらを見返している子どもの顔がありました。

父親はミラーの角度を直しました。映り込みだと考えたかったのでしょう。すると後ろの車も、少し遅れて、まったく同じようにミラーを直したそうです。

車列は少しずつ進みました。進むたび、後ろの“自分たちの車”との距離が短くなる。十メートル、五メートル、二メートル。けれど前方の車との間隔はなぜか広がっていき、白い車線だけが、伸びたゴムのように車の下へ吸い込まれていったといいます。

十四時五十六分。

車内の空調が、ふっと止まりました。暑い日だったのに、窓の内側だけが冷えて、細かい曇りが出ました。その曇りに、子どもが指で一本の線を引いたそうです。

線は、消えませんでした。

指を離したあとも、曇りの上をひとりでに進み、四十まで短い区切りを刻んで止まりました。まるで、窓ガラスの中に小さな渋滞図が描かれたようだったといいます。

その時、後ろで軽く追突されたような音がしました。

衝撃はありません。警告音もありません。ただ、車内の誰もが背中を押されたように少し前へ傾き、同時に、バックミラーの中の一家も同じだけ前へ傾きました。

父親は路肩へ寄せようとしました。けれどハンドルを切っても、車は白線の内側から出ません。隣の車線は空いているのに、そこだけが絵のように平らで、他の車の影も、人の気配もなかったそうです。

やがて、突然流れが戻りました。

前の車が動き、後ろの車も普通の黒いワゴンに戻っていました。父親は料金所を出るところまで無言で運転し、母親は何度も後ろを見たようです。子どもだけが、窓の曇りに残った四十本の線を、指で数え続けていたといいます。

出口で受け取った明細には、入口時刻も出口時刻も、どちらも十四時ちょうどと印字されていました。

走行距離の欄には、本来なら料金区分が入るはずだったそうです。そこに、小さく「四十キロ」とだけありました。

さらに下の余白に、薄い灰色の文字が浮いていました。

「後続一台、未通過」

父親はその紙を捨てたそうです。けれど帰宅して荷物を下ろすと、後部座席のチャイルドシートの隙間から、同じ明細が出てきました。折り目も、しみも、印字のかすれ方も同じだったといいます。

ただ、余白の文字だけが少し変わっていました。

「後続一台、接近中」

翌朝、車の後部バンパーには傷が残っていました。誰かが軽く押したような、横に細い擦れです。修理工場では、ぶつけられた跡ではなく、後ろから同じ材質のものを長く押し当てたような痕だと言われたそうです。

その車はもう手放されたと聞きます。

ただ、家に残された明細だけは、今も時々、日差しの角度によって文字が増えるそうです。

「十四時」
「上り」
「四十キロ」
「後続」

そして最後の一行だけは、まだ誰もはっきり読めていないといいます……そんな話を聞きました。

この怪談は、以下の記事をきっかけに生成されたフィクションです。

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