日常の崩れ

日々の営みは、わずかな綻びから静かに崩れはじめます。

平凡な記録や場面の中で起きる異変が、いつの間にか取り返しのつかない歪みを生んでいくのかもしれません……。

写真怪談

十五年目のねじ

捨てた家電から抜けたねじは、いったい誰のところへ戻るのか。十五年前のリサイクルセンターで始まった異変は、今も皮膚の下で回り続けている。
写真怪談

八段目の雨

昼にはひと雨来そうだ――そんな、ごくありふれた朝だった。歩道橋を渡った日のことを、私はもう忘れようとしている。それでも写真だけは、今も削除できない。理由は、見返すたびに思い出してしまうからだ。
写真怪談

門の歯列

夜の中庭にある古い煉瓦門には、閉館後だけ守られる奇妙な通行規則があった。それを破った男の身体で、門の補修が始まる。
写真怪談

屋上の串

駅前の古い雑居ビルで、何を飲んでも血の味がする一席。その真上をたどった屋上には、図面にない一本の竿が突き刺さっていた。
ウラシリ怪談

冷たさの帰る場所

暑い日に配られた、ただの冷たいおしぼり。けれど毎夕一本だけ増えるそれを、亡くなったはずの女性が受け取りに来たそうです。
写真怪談

まばたきの温室

まばたきの一瞬にだけ、温室の景色が残る。問題は、その景色の中で、ひとりだけ距離を詰めてくるものがいることだった。
写真怪談

空荷の鉤

青空の下、空荷のフックは動いていない。それなのに、人の体だけが吊り上げられていく――クレーン現場に残された螺旋の痕の話です。
写真怪談

七九八〇円の甲羅

値札には七九八〇円。けれど、その水槽で数えてはいけない一匹が、こちらへ移ってきた。
写真怪談

卒業する短冊

七夕飾りに吊るされた願いごとは、いつから“叶ったあと”の言葉に変わっていたのか。
写真怪談

空を塞ぐ環

頭上を巻く高速道路の下で、橋脚の影だけが輪になって縮みはじめる。
写真怪談

シャッターの隙間

半分だけ下りたシャッターの奥で、荷物は“積まれている”のではなく、少しずつ高さを預けていた。
写真怪談

毎咳後の薬

風邪薬は、飲む前から一つずつ「服用済み」になっていく。来週の出張まで、先に処方されてしまった男の話。
写真怪談

紙ナプキンの熱

風邪気味の仕事帰り、スタミナ丼を食べたら身体は楽になった。ただ、カウンターの紙ナプキンだけが、代わりに熱を持ちはじめた。
写真怪談

半額の重さ

閉店間際のスーパーで貼られる半額シールは、何を半分にしているのか。
写真怪談

五百ミリの欠番

終電帰りに買った一本の缶は、飲む前から少しずつ“減って”いた。
写真怪談

区域内の白い人

昼の街路、白いシートをかけた荷台のそばで、誰も乗せていないはずの赤いケースがひとつ多く鳴り始める。
写真怪談

鉢底の息

花屋の棚に並ぶ鉢植えの下で、水ではないものが静かに息を吸っていた。
写真怪談

手すりの糸くず

昼休みの公園に掛けられた一枚のタオルは、落とし物ではなく、少しずつほどけて何かを呼び戻していた。