日常の崩れ

日々の営みは、わずかな綻びから静かに崩れはじめます。

平凡な記録や場面の中で起きる異変が、いつの間にか取り返しのつかない歪みを生んでいくのかもしれません……。

写真怪談

点灯前の一本

始発前の駅ビル前。人影より一本多い足音が、頭上の“空いた丸穴”の真下で必ず重なる――。
写真怪談

活着痕

伐られて終わったはずの桜は、切り株の奥ではまだ“次の接ぎ先”を探していました。
写真怪談

敷かれない席

使わなかった花見マットの内側にだけ、どうして前かごの網目が残っていたのでしょうか。
写真怪談

登り痕

塀の上に揃えて置かれた黒い革靴。誰が捨てても翌朝には戻り、今度は「上」に向かう足跡だけが少しずつ増えていきます。
写真怪談

三席目

屋上の二脚は、誰も座っていないはずの一辺だけを、毎日きれいに空けて待っていました。
写真怪談

底歩き

雨上がりの緑道で、水たまりだけが「こちらへ来る誰か」を先に映していました。
写真怪談

肘痕

夕方の高い通路で、手すりに残っていたのは一人分の体温ではありませんでした。
晩酌怪談

夜勘定

昼の一杯のはずだったのに、伝票にはまだ来ていないはずの「今夜の自分」の会計が先に印字されていた。
写真怪談

祈影

昼の教会で見つけたのは、影ではなく“祈った跡”でした。
ウラシリ怪談

四袋目の水やり日

黒い袋は三つのはずでした。春になるころ、札のない四つ目だけが、まだ中で静かに湿っていたそうです。
写真怪談

隙間の顔

人が入れる幅もない、建物裏の配管の隙間。けれど夕方だけ、そこに“顔から先に来る何か”がいる。
写真怪談

継ぎ輪

昼の路地で、電気の唸りが二拍だけ止むたび、外壁の配管に“ありえない継ぎ目”がひとつずつ増えていく。
ウラシリ怪談

遊んだあとの返送票

祭りの景品を扱う問屋に、使い終わったはずの水鉄砲の的が、返送票つきで戻ってくるようになったそうです。
ウラシリ怪談

まだ舞台を知らない靴

二千点を超える衣裳を詰める夜、まだ一度も海を越えていないはずの靴のつま先だけが、少しずつ削れていったそうです。
ウラシリ怪談

喉と腹のあいだ

減塩を始めたはずの食卓で、塩だけが誰にも見えない口へ先に運ばれていたそうです。
写真怪談

七階の水位線

都心の水路を見下ろす七階の窓に、地上にはないはずの“水位線”が現れはじめた。
写真怪談

二番待ち

終バスを待つ細い停留所で、なぜか「二番目」に立った人だけが、毎晩きれいに消えていくのです。
写真怪談

電線の赤い花びら

満開の桜の下、昼の路線バスが通るたび、一本の電線だけが真っ赤な花びらで太っていく。