写真怪談

検知枠

防犯アプリが二重に送ってくる通知には、いつも“一人ぶん足りない”何かが写っていました。
写真怪談

白幕

工事現場の白い幕が、人の通行を数秒遅れて真似しはじめた路地。布の向こうには、誰も通れないはずの幅しかなかった。
写真怪談

手すりの体温

青空の真下にある住宅街の階段で、白い手すりの裏側だけが、誰かの体温を覚えていた。
写真怪談

替皮

境内の片隅に置かれた、片目の欠けた石の蛙と二匹の亀。冬の最初に供えられる柚子には、寺の者が決して早く片づけない理由がありました。
写真怪談

口移し

苺餡と芋餡のたい焼きを並べた夜だけ、ショーケースの内側には、向かい合った吐息のような曇りが二つ残る。
写真怪談

口火

最後のひとりが喫煙所を出たあとも、一本ぶんだけ煙が帰ってこない夜がある。
ウラシリ怪談

となりの青いドラム

並べられた二つのドラムセット。そのうち片方は、もう誰も叩かないはずの新品でした。それでもあの夜、舞台の上では確かに「合図」が返ってきたそうです。
ウラシリ怪談

受け身のいない床

追加キャラクターの動きが完成した夜から、誰もいない床が受け身を取りはじめたそうです。
ウラシリ怪談

十三インチの隙間

閉じたはずの新しいノートの隙間に、もうひとつ細長い“部屋”が残っていたそうです。
晩酌怪談

残機

深夜の晩酌と古いシューティングゲーム。その残機表示が、いつからかグラスの氷と同じ数で動くようになった。
写真怪談

花芯

花見客で賑わう桜並木で、落ちた花びらの“芯”だけが揃って赤くなる区間がある。冗談のような迷信を調べた先で、春の道が何を抱えたまま咲いているのかを知ってしまう。
写真怪談

青札

駅前の駐輪場に、ときどき「日付のない青札」が下がる。その札に触れた自転車は、夜のうちに一度だけ誰かを送りに出るらしい。
写真怪談

渡りきるまで

夜の細い路地で、疲れた人たちを待つように青が少しだけ長くなる交差点がある。最後のひとりが渡りきるまで赤に戻らないその理由を知ったのは、息子が空の角へ小さく会釈した夜だった。
写真怪談

停車位置

閉業したガソリンスタンドの裏窓に、何日も同じ位置に立ち続ける人影があった。誰も入れないはずの場所に見えるそれは、やがて別の窓へ移ってくる。
ウラシリ怪談

基準体の寝顔

全身の細胞を重ね合わせた先に、どの標本にも属していない“小さな寝顔”が残るそうです。
晩酌怪談

二つ目の輪

一杯のそばを啜るたび、少し遅れてもうひと口ぶんの音が返った。誰もいないはずの卓上には、食べ終わるたびもうひとつの痕跡が残った。
写真怪談

ひとつぶんの影

車のリアガラスに映っていたのは、春の街路と、いるはずのない親子連れでした。けれど歩道に落ちていた影は、どう見ても一人分しかなかったのです。
写真怪談

拾球当番

夕暮れの住宅街で、投光器が点く前にだけ家の中から鈍い音がする。翌朝なくなっているのは、なぜか決まって“丸いもの”だった。