写真怪談

橋裏の通学路

学生たちが渡る橋。その立入禁止の通路では、天井を逆さまに歩く靴底が、一歩ずつ公園の奥へ向かっていた。
写真怪談

指定名のない木

名前を覆った瞬間、天然記念物の古木は消えた――それでも、木の形をした「空白」だけは、そこに立ち続けていた。
写真怪談

鷺の水位

夕暮れの堀に止まる鷺。その高さに合わせるように、灰色の羽毛は彼女の身体を少しずつ昇っていった。
写真怪談

十五年目のねじ

捨てた家電から抜けたねじは、いったい誰のところへ戻るのか。十五年前のリサイクルセンターで始まった異変は、今も皮膚の下で回り続けている。
写真怪談

八段目の雨

昼にはひと雨来そうだ――そんな、ごくありふれた朝だった。歩道橋を渡った日のことを、私はもう忘れようとしている。それでも写真だけは、今も削除できない。理由は、見返すたびに思い出してしまうからだ。
写真怪談

鉄柱の向こう側

写真には写っていなかったはずの一本が、時間が経つたびに増えていく。消えるのは鉄柱ではなく、景色のほうだった。
写真怪談

門の歯列

夜の中庭にある古い煉瓦門には、閉館後だけ守られる奇妙な通行規則があった。それを破った男の身体で、門の補修が始まる。
写真怪談

屋上の串

駅前の古い雑居ビルで、何を飲んでも血の味がする一席。その真上をたどった屋上には、図面にない一本の竿が突き刺さっていた。
ウラシリ怪談

冷たさの帰る場所

暑い日に配られた、ただの冷たいおしぼり。けれど毎夕一本だけ増えるそれを、亡くなったはずの女性が受け取りに来たそうです。
ウラシリ怪談

六分後の網目

夏の昼すぎ、海上の網はロケットのブースターを待っていました――けれど、その網には帰還よりも早く、小さな誰かが横たわっていたそうです。
写真怪談

まばたきの温室

まばたきの一瞬にだけ、温室の景色が残る。問題は、その景色の中で、ひとりだけ距離を詰めてくるものがいることだった。
ウラシリ怪談

四十メートルの舌

八百個の風鈴が鳴る四十メートルの参道で、最初に消えたのは音ではなく、短冊の影だったそうです。
写真怪談

空荷の鉤

青空の下、空荷のフックは動いていない。それなのに、人の体だけが吊り上げられていく――クレーン現場に残された螺旋の痕の話です。
写真怪談

七九八〇円の甲羅

値札には七九八〇円。けれど、その水槽で数えてはいけない一匹が、こちらへ移ってきた。
ウラシリ怪談

昼の笹の一粒

七夕の昼、白紙の短冊に浮かんだのは、大きな願いではなく「ひとつでいいです」という小さな言葉でした。
写真怪談

卒業する短冊

七夕飾りに吊るされた願いごとは、いつから“叶ったあと”の言葉に変わっていたのか。
写真怪談

笹の手当て

七夕の笹に結ばれた願いのうち、誰かを思う短冊だけが、ほんの少し温かくなる。
写真怪談

空を塞ぐ環

頭上を巻く高速道路の下で、橋脚の影だけが輪になって縮みはじめる。