写真怪談

色のない川

夜の高架下、色を失った川面にだけ、現実にはいない後ろ姿が映っていた。
写真怪談

三番の声だまり

試合後の群衆が駅へ押し寄せる高架下で、まだ誰も叫んでいないはずの歓声だけが、頭上から先に落ちてくる。
写真怪談

橋裏の水位札

橋の下に貼られた小さな水位札は、ただの管理表示ではありませんでした。水面に残る線と、写らないはずの足跡が、少しずつこちら岸へ近づいてきます。
写真怪談

下り道の印

坂を下りきったはずなのに、家だけが町から消えている。壁に残った白い数字は、誰の住所を数えているのか。
ウラシリ怪談

千五百二十一番目の小間

存在しないはずの小間番号だけが、来場証の裏に薄く浮かんでいたそうです。
晩酌怪談

釣り銭口の出口

飲み終えた夜、出口の階段を降りるたび、自販機の釣り銭口で硬貨が増えていく。
写真怪談

白い柵の空白

白い非常階段を見上げたとき、そこにいたのは人影ではなく、人が抜き取られたような“空白”だった。
写真怪談

出発済の信号

赤信号が点いたのは、列車を止めるためではなく、すでに出発してしまった何かを記録するためだったのかもしれません。
写真怪談

縞に読まれる朝

朝のオフィス街で、誰もが同じ方向へ歩いている――その足元の縞だけが、人を静かに読み取っていた。
写真怪談

九時の同じ首

朝九時の駅で、誰もが同じ角度でスマートフォンを見ている──その列にだけ、人数よりひとつ多い痕跡が残っていた。
晩酌怪談

菊が焼けるまで

焼き鳥を待つあいだ、マグロブツに添えられた小さな菊だけが、焼き場の方を向きはじめた。
写真怪談

黄色い戻り道

雨の日の駅出口にある黄色い点字ブロックは、人を導くためではなく、誰かを戻すために濡れていたのかもしれません。
写真怪談

庇の下の四人目

昼休みを外した路地裏の人気店。たった三人の行列の前に、誰も立っていないはずの“順番”がありました。
写真怪談

白い配管の吸い跡

昼の外壁に這う白い配管は、排水ではなく、街の何かを静かに吸い上げていた。
写真怪談

裏口の白い湯

洗い終えたはずの鍋の底に、白いものだけが戻ってくる――裏口に残された輪の正体とは。
ウラシリ怪談

八十一枚目の余白

八十点のはずの展示室で、数に入らない一枚だけが、壁の内側から刷られていたそうです。
ウラシリ怪談

一皿目の客

国を結ぶはずの夕食会で、招かれていない一皿だけが、次の故郷を待っていたそうです。
晩酌怪談

酒ケーキの列

商店街の片隅に揺れる「酒ケーキ」ののぼり——試食を断っただけなのに、甘い怪異は律儀に追いかけてくる。