写真怪談

四十五リットルの首

朝の歩道に並んでいた透明なゴミ袋。その中の首は、回収されるものではなく、まだ誰かを選んでいる途中だった。
写真怪談

四十五リットルの皮

雨の日の歩道に並ぶ白い袋。その中身は、ごみではなく、誰かから少しずつ剥がれ落ちたものだった。
写真怪談

駐輪場の余白

雑居ビルかマンションかも分からない古い建物の一階で、誰も停めていないはずの場所だけが、少しずつ埋まっていく。
写真怪談

梁の間の人影

ビルの隙間に渡る二本の梁。その上を、昼の光の中で人ではない形が少しずつ降りてくる。
晩酌怪談

つゆ跡の鳥

普通の昼食だったはずの、もりそばとミニ鳥丼。けれど食後のレシートには、紙の内側から出ようとしたような黒い跡が残っていた。
写真怪談

涼味の一口

スーパーの和菓子コーナーで、未開封の甘味だけに残る“ひと口ぶんの曇り”。それは商品ではなく、味そのものを少しずつ減らしていた。
写真怪談

門のない郭

かつて塀と堀に囲われた旧遊郭の大門跡。今は何もないはずの街角に、古い絵葉書の“印刷の粒”だけが戻ってくる。
写真怪談

赤信号の上

都心の夜、赤信号は地上の車だけを止めているわけではなかった。
写真怪談

掌の送り状

いくつもの線路を見下ろす歩道橋で、掌の線だけが送り状の押印欄として失われていく。
写真怪談

未体験の充電

店先の充電箱は、スマホではなく、そこに置いた人の“残り”を満たしていく。
写真怪談

三十三人目の客

土日だけ開く人気つけ麺店。その朝、列の人数だけが何度数えても合わなかった――。
写真怪談

拭く人を見た

朝の通勤時間、専門学校の校舎前でビルの窓を拭く作業員を一度だけ見上げた。そのガラスの中で、こちらの人々だけが全員、見てはいけない場所を見上げていた。
写真怪談

三人目の乾き

雨の夜、赤い傘と白い傘の横にだけ、濡れない場所がついてきていた。
写真怪談

握り返す継ぎ目

遅延した満員電車で、連結部分の手すりだけが、人の手の温度を覚えていた。
写真怪談

腹の下の客

蕎麦屋の入口に置かれた二体の陶像。その片方の腹の下には、雨上がりだけ“何か”が詰まっている。
写真怪談

窓枠の人数

その集会所は、町内会の倉庫と呼んだほうが近かった。古い木造で、畳の部屋がひとつ。折りたたみ椅子を三脚出せば、もう通路がなくなる。外から見ると、出窓だけが妙に立派だった。淡い青に塗られた木枠は剥げ、ガラスは少し曇っていて、中の様子を見ようとすると、いつも自分の顔と室内の暗がりが重なった。町内では、月に一度だけそこで回覧板の仕分けをしていた。使うのは自治会長と、班長が二人。三人入ればいっぱいになるので、次の人は外で待つ。そういう決まりでもないのに、誰も四人目として入ろうとはしなかった。ある年の梅雨前、若い班長がそれを笑った。「狭いだけでしょ」そう言って、彼は先に入っていた三人のあとから戸を開けた。だが片足を上げたところで、ぴたりと止まった。中から冷たい風が出てきたのだという。扇風機もない。窓も閉まっている。なのに、膝から下だけが水に浸かったみたいに冷え、彼は靴を脱ぐ前に足を引っ込めた。室内の三人は、何も感じていなかった。その日、仕分けを終えて外へ出ると、出窓の下のガラス一枚だけが白く曇っていた。内側から息を吹き...
写真怪談

先席の白い袋

優先席の下に落ちていた、空の白い袋。捨てても戻るそれは、少しずつ車内の表示から一文字を抜き取っていく。
ウラシリ怪談

1995の空席

金利を決めるはずの会議室で、誰のものでもない椅子だけが、先に着席を待っていたそうです。