写真怪談

金網の底

山中の高架下で見上げた金網には、上から落ちたのではないものが引っかかっていた。
晩酌怪談

醤油だまりの影

居酒屋のカウンター、瓶ビールの空きグラス、醤油を垂らしたタルタル——右隣の席には、食べ終わるまで帰らない薄い人影が座っていた。
写真怪談

錠前の内側

山奥の高速道路とバイパスに挟まれた、施錠済みの小さな物置小屋。道路整備員がそこで見た南京錠は、開ける側だけを“内側”へ向けていた。
写真怪談

傘袋の欄干

晴れた日だけ濡れている、二階の欄干に掛かった透明な袋――その内側で、何かが少しずつ根を張っていました。
写真怪談

剥がれない貼り札

路地の植え込みにある、スプレー缶で作られた小さな鳥居。そこに貼られた無数のステッカーは、剥がれているのではなく、誰かを選んで戻ってくるのかもしれません。
写真怪談

鳥の顔が見ている

昼間の路地で見つけた、奇妙な鳥の落書き。だが“それ”は、見るたびに少しずつ形を変えていた――。
写真怪談

吹き抜けの内側

閉館後の吹き抜けで、一灯だけ遅れて点く理由を知ってしまった人は、もう真下を歩けなくなります。
ウラシリ怪談

三十日目の返品窓

買い物は、選ぶものだったはずです。けれど、三十日間だけ開いた返品窓の向こうで、選ばれていたのは別のものだったのかもしれません。
写真怪談

七日目の鯉

子供の日を過ぎても神社に残された鯉のぼり――それは、少し遅れてやってくる子を待つためのものでした。
写真怪談

赤で空く車線

昼の交差点、赤信号のたびに「バス専用」の車線だけが、誰も乗らないはずの扉を開けていた。
写真怪談

梢の首数

昼の公園で、梢を撮っていた男性。シャッター音は、いつからか木の上から返ってくるようになっていた。
ウラシリ怪談

九条だけが折れている

5万人が去ったあとの広場で、清掃員が見つけたのは、地面の下に折りたたまれていた“第九条”でした。
写真怪談

黒壁のぬるさ

自販機の冷たい光に挟まれた黒い壁だけが、夜ごとに人肌のぬるさを帯びていく――。
写真怪談

水面の継ぎ目

昼の高架下、水面にだけ実在しない階層が映る――その継ぎ目を見てしまった者に残る、黒い指の痕跡。
写真怪談

赤い支柱の借家

夕方の路地に立つ小さな巣箱は、鳥ではなく、部屋から抜け落ちた“居た感じ”を少しずつ借りていた。
写真怪談

下から乾く階段

夜明け前、誰も使わない外階段だけが、下から一段ずつ乾いていく。
写真怪談

曲がり道の縫い目

夜の曲がり道に並ぶ白い道路標示は、ただのペンキではなかったのかもしれない。
写真怪談

空表示の下

高架下の歩道で、緑の「空」表示だけが、夜ごと違うものの空きを数えていた。