三つ目のしおり

ウラシリ怪談

四月の半ばから五月のはじめにかけて、市内の図書館で子ども向けの読書まつりが開かれていたそうです。

十三の館と部屋をめぐり、スタンプを三つ集めると景品がもらえる。ぬりえ、おはなし会、本の展示、しおりの配布。掲示板に貼られた案内は、どこにでもある明るい催しのものでした。

最初の異変は、こどもの読書の日の前日だったといいます。

受付に置かれていた台紙の束のうち、いちばん上の一枚だけ、すでにスタンプが一つ押されていました。開館前で、まだ誰も入っていない時間です。職員は前日の残りが混ざったのだろうとして、台紙を裏返しました。

けれど、裏にも同じ印がありました。

それは館の名前ではなく、小さな花のような形で、中心だけが黒く潰れていたそうです。

その日の午後、児童コーナーでぬりえをしていた子が、職員に台紙を見せました。スタンプは二つ押されていました。ひとつはその館のもの。もうひとつは、やはり黒い花の印でした。

「三つめは、どこでもらえるの」

子どもはそう尋ねたといいます。

職員が確認すると、その子はまだ館内から出ていませんでした。保護者も、他の館へは行っていないと言いました。台紙は新品で、配布したばかりのものだったそうです。

それから数日、同じことが続きました。

三つ集めるはずのスタンプラリーなのに、子どもたちの台紙には、必ず二つ目として黒い花が現れました。押された直後のように紙が少し湿っていて、指で触れると、インクではなく古い本の埃のようなものがついたそうです。

職員たちは、台紙の保管場所を変えました。配布枚数も数え直しました。けれど、なくなり次第終了のはずのしおりだけが、なぜか減りませんでした。

ある閉館後、中央の閲覧席に三枚のしおりが並んでいました。

一枚目には「本はともだち」と印刷されていました。二枚目には、子ども向けの絵がありました。三枚目だけは白紙でした。

白紙のしおりをめくると、裏に小さな字でこう書かれていたそうです。

「あとひとつ」

翌朝、景品箱の中に、見覚えのない袋が一つ増えていました。袋には、スタンプを三つ集めた子に渡す景品と同じリボンが結ばれていました。ただし中身は、景品ではありませんでした。

ぬりえの台紙が一枚、折られて入っていたそうです。

そこには十三の館と部屋の名前が、子どもの筆圧で順番に書かれていました。最後の行だけ、どの案内にもない場所でした。

「本のかげ」

その文字の横に、黒い花のスタンプが三つ押されていました。

以後、その館では閉館後に児童書の棚を点検する時、棚板と本のあいだに細い白いものが挟まっていないかを確認するようになったそうです。

見つかるのは、たいてい白紙のしおりです。

ただ、五月十日を過ぎてから一度だけ、職員が抜き取ったしおりに、鉛筆で薄く名前が書かれていたといいます。

それは、その日来館した子どもの名前ではありませんでした。

景品受取期間が終わる五月二十八日まで、誰もその名前を呼ばなかったそうです。けれど児童コーナーの貸出記録には、毎日一冊ずつ、借りた覚えのない本が戻ってきていたといいます。

返却印はありません。

代わりに、黒い花が一つだけ押されていたそうです……そんな話を聞きました。

この怪談は、以下の記事をきっかけに生成されたフィクションです。

令和8年度 子ども読書まつり 本はともだち!

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