2026-07

写真怪談

火星人の根元

植物園で撮った何気ない一枚。その写真では、植物の根元に隠れていたものが、見るたびに少しずつ前へ出てきた。
ウラシリ怪談

四十度の迎え水

四十度を超えた部屋に残された、乾かない二つの水の輪――亡き妻は、夫を迎えに来たのではなかったのかもしれません。
写真怪談

鉢が食べる隙間

ハエトリグサが閉じるたび、部屋から「隙間」が一つずつ消えていく。冷蔵庫の裏、棚の下、そして指と指のあいだ――最後まで残る余白は、どこだろう。
晩酌怪談

板わさの向かい側

猛暑の昼、久しぶりに入った蕎麦屋での一人飲み。板わさの向かいには誰もいないはずなのに、醤油の小皿には、こちらへ伸びるもう一膳の箸が映っていました。
写真怪談

閉じ傘の息

客が去ったあとの椅子から、匂いだけが消えていく。閉じたパラソルの中では、代わりに四十七人分の「息」が膨らんでいた。
写真怪談

夕焼けが越えてくる

夕焼けを撮るたび、雲の横顔は住宅街へ近づいていた。やがて写真に残ったのは、空を横切る電線ではなく、そのすべてが繋がる「何か」だった。
写真怪談

ぶら下がる順番

満員電車で目に留まった、ぬいぐるみだらけの黒いリュック。車体が揺れても動かない小さな身体と、いつの間にかこちらを追っていた無数の目。その一体が持ち主を離れたとき、逃げられない順番が始まります。
写真怪談

点呼にいない者

朝礼の写真に写っていた人数は、名簿より一人多かった。誰を数え間違えたのかではない。最後まで数えても、「余る一人」が誰なのか分からなかったのだ。
ウラシリ怪談

十三歳の外側

十二歳までは、子どもだけで入れる広場。けれど閉場前、柵の内側には、とうに大人になった父親の「十二歳」が残っていました。
写真怪談

橋裏の通学路

学生たちが渡る橋。その立入禁止の通路では、天井を逆さまに歩く靴底が、一歩ずつ公園の奥へ向かっていた。
写真怪談

指定名のない木

名前を覆った瞬間、天然記念物の古木は消えた――それでも、木の形をした「空白」だけは、そこに立ち続けていた。
写真怪談

鷺の水位

夕暮れの堀に止まる鷺。その高さに合わせるように、灰色の羽毛は彼女の身体を少しずつ昇っていった。
写真怪談

十五年目のねじ

捨てた家電から抜けたねじは、いったい誰のところへ戻るのか。十五年前のリサイクルセンターで始まった異変は、今も皮膚の下で回り続けている。
写真怪談

八段目の雨

昼にはひと雨来そうだ――そんな、ごくありふれた朝だった。歩道橋を渡った日のことを、私はもう忘れようとしている。それでも写真だけは、今も削除できない。理由は、見返すたびに思い出してしまうからだ。
写真怪談

鉄柱の向こう側

写真には写っていなかったはずの一本が、時間が経つたびに増えていく。消えるのは鉄柱ではなく、景色のほうだった。
写真怪談

門の歯列

夜の中庭にある古い煉瓦門には、閉館後だけ守られる奇妙な通行規則があった。それを破った男の身体で、門の補修が始まる。
写真怪談

屋上の串

駅前の古い雑居ビルで、何を飲んでも血の味がする一席。その真上をたどった屋上には、図面にない一本の竿が突き刺さっていた。
ウラシリ怪談

冷たさの帰る場所

暑い日に配られた、ただの冷たいおしぼり。けれど毎夕一本だけ増えるそれを、亡くなったはずの女性が受け取りに来たそうです。