土地と風習

土地に根づいた風習や人々の営みを題材にした怪談を集めています。

風景や祭礼の記録に紛れ込む、説明のつかない歪みが物語となり、古い土地の記憶と共鳴するのかもしれません……。

ウラシリ怪談

四十メートルの舌

八百個の風鈴が鳴る四十メートルの参道で、最初に消えたのは音ではなく、短冊の影だったそうです。
ウラシリ怪談

昼の笹の一粒

七夕の昼、白紙の短冊に浮かんだのは、大きな願いではなく「ひとつでいいです」という小さな言葉でした。
写真怪談

笹の手当て

七夕の笹に結ばれた願いのうち、誰かを思う短冊だけが、ほんの少し温かくなる。
写真怪談

苔下の重し

林の奥に積まれた古いブロックは、捨てられたものではなく、何かを押さえ続けるための“重し”だった。
写真怪談

門のない郭

かつて塀と堀に囲われた旧遊郭の大門跡。今は何もないはずの街角に、古い絵葉書の“印刷の粒”だけが戻ってくる。
写真怪談

窓枠の人数

その集会所は、町内会の倉庫と呼んだほうが近かった。古い木造で、畳の部屋がひとつ。折りたたみ椅子を三脚出せば、もう通路がなくなる。外から見ると、出窓だけが妙に立派だった。淡い青に塗られた木枠は剥げ、ガラスは少し曇っていて、中の様子を見ようとすると、いつも自分の顔と室内の暗がりが重なった。町内では、月に一度だけそこで回覧板の仕分けをしていた。使うのは自治会長と、班長が二人。三人入ればいっぱいになるので、次の人は外で待つ。そういう決まりでもないのに、誰も四人目として入ろうとはしなかった。ある年の梅雨前、若い班長がそれを笑った。「狭いだけでしょ」そう言って、彼は先に入っていた三人のあとから戸を開けた。だが片足を上げたところで、ぴたりと止まった。中から冷たい風が出てきたのだという。扇風機もない。窓も閉まっている。なのに、膝から下だけが水に浸かったみたいに冷え、彼は靴を脱ぐ前に足を引っ込めた。室内の三人は、何も感じていなかった。その日、仕分けを終えて外へ出ると、出窓の下のガラス一枚だけが白く曇っていた。内側から息を吹き...
写真怪談

裏葉の橋

新緑に包まれた白い橋。その下で、葉は裏返り、石は誰も渡らない橋を作り始める。
晩酌怪談

酒ケーキの列

商店街の片隅に揺れる「酒ケーキ」ののぼり——試食を断っただけなのに、甘い怪異は律儀に追いかけてくる。
写真怪談

七日目の鯉

子供の日を過ぎても神社に残された鯉のぼり――それは、少し遅れてやってくる子を待つためのものでした。
ウラシリ怪談

しょうぶの冠がほどける昼

こどもの日に入るしょうぶ湯。頭に巻けば温まるというその葉が、昼の湯気の中で、別の時代へほどけていきます。
写真怪談

葉を噛む木面

葉に隠れた木彫りの口元だけが、毎朝少しずつ濡れていた――古い店先に残る、噛み跡の怪談です。
ウラシリ怪談

ひとり分の湯

閉店を告げた北の銭湯では、最後の客が帰ったあとも、毎晩きっちり“一人分”だけ湯が減っていたそうです。
ウラシリ怪談

氷の内側の轍

三月と四月のあいだだけ、氷の下にもうひとつの轍が走る村があるそうです。
写真怪談

替皮

境内の片隅に置かれた、片目の欠けた石の蛙と二匹の亀。冬の最初に供えられる柚子には、寺の者が決して早く片づけない理由がありました。
写真怪談

花芯

花見客で賑わう桜並木で、落ちた花びらの“芯”だけが揃って赤くなる区間がある。冗談のような迷信を調べた先で、春の道が何を抱えたまま咲いているのかを知ってしまう。
ウラシリ怪談

百十八段のひとり分

雨で中止になったはずの石段に、“座った跡”だけが百十八段ぶん残ったそうです。
ウラシリ怪談

無料観覧の発掘面

展示ケースの下の床面にだけ“発掘区画”が浮き、角には「観覧無料」の札が置かれていたそうです。
ウラシリ怪談

玄関がまだ外だった

「裏から見ても同じに読める」札を玄関に掛けた家で、境目そのものが迷いはじめた――そんな噂です。