記録と痕跡

記録に残された痕跡は、時に説明できない異変を映し出します。

誰が残したのかも分からぬまま、その痕跡だけが確かに存在しているのです……。

写真怪談

色のない川

夜の高架下、色を失った川面にだけ、現実にはいない後ろ姿が映っていた。
写真怪談

橋裏の水位札

橋の下に貼られた小さな水位札は、ただの管理表示ではありませんでした。水面に残る線と、写らないはずの足跡が、少しずつこちら岸へ近づいてきます。
写真怪談

下り道の印

坂を下りきったはずなのに、家だけが町から消えている。壁に残った白い数字は、誰の住所を数えているのか。
ウラシリ怪談

千五百二十一番目の小間

存在しないはずの小間番号だけが、来場証の裏に薄く浮かんでいたそうです。
写真怪談

出発済の信号

赤信号が点いたのは、列車を止めるためではなく、すでに出発してしまった何かを記録するためだったのかもしれません。
写真怪談

縞に読まれる朝

朝のオフィス街で、誰もが同じ方向へ歩いている――その足元の縞だけが、人を静かに読み取っていた。
ウラシリ怪談

八十一枚目の余白

八十点のはずの展示室で、数に入らない一枚だけが、壁の内側から刷られていたそうです。
ウラシリ怪談

一皿目の客

国を結ぶはずの夕食会で、招かれていない一皿だけが、次の故郷を待っていたそうです。
写真怪談

錠前の内側

山奥の高速道路とバイパスに挟まれた、施錠済みの小さな物置小屋。道路整備員がそこで見た南京錠は、開ける側だけを“内側”へ向けていた。
写真怪談

剥がれない貼り札

路地の植え込みにある、スプレー缶で作られた小さな鳥居。そこに貼られた無数のステッカーは、剥がれているのではなく、誰かを選んで戻ってくるのかもしれません。
ウラシリ怪談

三十日目の返品窓

買い物は、選ぶものだったはずです。けれど、三十日間だけ開いた返品窓の向こうで、選ばれていたのは別のものだったのかもしれません。
写真怪談

梢の首数

昼の公園で、梢を撮っていた男性。シャッター音は、いつからか木の上から返ってくるようになっていた。
ウラシリ怪談

九条だけが折れている

5万人が去ったあとの広場で、清掃員が見つけたのは、地面の下に折りたたまれていた“第九条”でした。
ウラシリ怪談

十四時の車間

五月五日の上り線、十四時ちょうどに止まった車列で、ある一家は“自分たちの後続車”を見てしまったそうです。
ウラシリ怪談

除かれた朝の便

連休終盤の朝、満席のはずの便にだけ残っていた「除」の席――そこに乗った人たちは、見送られる側ではなかったのかもしれません。
ウラシリ怪談

二十四番目のおまとめ便

「明日行ける」と印刷された連休の案内。その紙にだけ、二十四番目の投票先が紛れていました。
ウラシリ怪談

113体目の落札箱

落札したのは、112体のぬいぐるみだったはずでした。けれど6箱目には、数えてはいけない“門”が混じっていたそうです。
ウラシリ怪談

三つ目のしおり

三つ集めるだけの、普通のスタンプラリーでした。けれど二つ目の印だけは、誰も押していなかったそうです。