知らない誰か

写真怪談

立枯れの人

夜のマンション公園で、木に顔を寄せるように立っていた人。近づけば消え、先を見ると、また別の木の脇に立っている。やがて管理札には、健康な木にはあるはずのない文字が現れ始めた。
ウラシリ怪談

灯りは足もとに

約500の露店が連なる秋の夜、人波の中で一つだけ、火のない提灯が足もとを照らしていました。
写真怪談

点呼にいない者

朝礼の写真に写っていた人数は、名簿より一人多かった。誰を数え間違えたのかではない。最後まで数えても、「余る一人」が誰なのか分からなかったのだ。
ウラシリ怪談

冷たさの帰る場所

暑い日に配られた、ただの冷たいおしぼり。けれど毎夕一本だけ増えるそれを、亡くなったはずの女性が受け取りに来たそうです。
写真怪談

区域内の白い人

昼の街路、白いシートをかけた荷台のそばで、誰も乗せていないはずの赤いケースがひとつ多く鳴り始める。
写真怪談

三人目の乾き

雨の夜、赤い傘と白い傘の横にだけ、濡れない場所がついてきていた。
ウラシリ怪談

三人目の旅程

4/22の「よい夫婦の日」に合わせた旅行アンケートへ答えただけでした。なのに印刷された旅程表は、二人ぶんでは終わらなかったのです。
写真怪談

二人乗りの欄

春から厳しくなった自転車の取り締まり。その夜、警官が切った一枚の紙には、誰も見ていない「もう一人」の違反が残っていた。
写真怪談

下りきらない昼

昼休みの公園で、子どもの遊具にしゃがみ込む背広の男を見かけた。その姿は翌日も変わらなかったが、先に沈み始めたのは、本人ではなく影のほうだった。
写真怪談

底歩き

雨上がりの緑道で、水たまりだけが「こちらへ来る誰か」を先に映していました。
写真怪談

隙間の顔

人が入れる幅もない、建物裏の配管の隙間。けれど夕方だけ、そこに“顔から先に来る何か”がいる。
ウラシリ怪談

まだ舞台を知らない靴

二千点を超える衣裳を詰める夜、まだ一度も海を越えていないはずの靴のつま先だけが、少しずつ削れていったそうです。
ウラシリ怪談

喉と腹のあいだ

減塩を始めたはずの食卓で、塩だけが誰にも見えない口へ先に運ばれていたそうです。
ウラシリ怪談

ひとり分の湯

閉店を告げた北の銭湯では、最後の客が帰ったあとも、毎晩きっちり“一人分”だけ湯が減っていたそうです。
写真怪談

手すりの体温

青空の真下にある住宅街の階段で、白い手すりの裏側だけが、誰かの体温を覚えていた。
写真怪談

口火

最後のひとりが喫煙所を出たあとも、一本ぶんだけ煙が帰ってこない夜がある。
ウラシリ怪談

基準体の寝顔

全身の細胞を重ね合わせた先に、どの標本にも属していない“小さな寝顔”が残るそうです。
晩酌怪談

二つ目の輪

一杯のそばを啜るたび、少し遅れてもうひと口ぶんの音が返った。誰もいないはずの卓上には、食べ終わるたびもうひとつの痕跡が残った。