増殖するもの

写真怪談

ぶら下がる順番

満員電車で目に留まった、ぬいぐるみだらけの黒いリュック。車体が揺れても動かない小さな身体と、いつの間にかこちらを追っていた無数の目。その一体が持ち主を離れたとき、逃げられない順番が始まります。
写真怪談

七九八〇円の甲羅

値札には七九八〇円。けれど、その水槽で数えてはいけない一匹が、こちらへ移ってきた。
写真怪談

毎咳後の薬

風邪薬は、飲む前から一つずつ「服用済み」になっていく。来週の出張まで、先に処方されてしまった男の話。
ウラシリ怪談

三つ目のしおり

三つ集めるだけの、普通のスタンプラリーでした。けれど二つ目の印だけは、誰も押していなかったそうです。
写真怪談

砂の列、停車しないもの

バス停の脇にできた小さなアリの巣。出入りしているのは、たった三匹だけ――それなのに、待つ人が多い日ほど、砂の筋は少しずつ太くなっていった。
ウラシリ怪談

四袋目の水やり日

黒い袋は三つのはずでした。春になるころ、札のない四つ目だけが、まだ中で静かに湿っていたそうです。
写真怪談

踊り場の白線

夜の白い階段には、見えている十一段のほかに、どうしても数に入らない「余った一段」がある。踏むたびに失くすのは、足場ではなく時間のほうだった。
ウラシリ怪談

支払方法:空白

閉店中のはずの無人店舗で、回収しても回収しても“空白のレシート”だけが増えていくそうです……。
ウラシリ怪談

二千五百一枚目の整理券

二千五百枚で終わるはずの整理券が、終わらなかったそうです…
写真怪談

近道々

年末の露店通り、「駅近道→」の下を進むたび、案内の文字だけが増えていく。
晩酌怪談

赤丸の値札が消えない夕方

十二月の午後四時、居酒屋の軒先で“数え直せない”ものが増えていく——赤丸のメニューが滲むとき、棚の並びも変わりはじめる。
写真怪談

片付けてはいけない置き場

散らかり放題の資材置き場を片付け始めた新人は、何度片付けても元通りになる「裏の山」と、そこに眠るはずのない“形”と向き合うことになる──。
写真怪談

分解図にない部品

分解図に載っていない部品が、遺影を修整するたび一つずつ増えていく──エアブラシを洗うトレイの上で、消したはずの「誰か」が、ゆっくりと呼吸を始めた。
ウラシリ怪談

金型の日に増えるもの

ごく普通の樹脂製品を作り続ける工場で、「金型の日」だけ決まって増えていく顔の噂があるそうです…
写真怪談

緑の網の下で眠るもの

住宅街の片隅、いつもゴミがひとつも置かれない緑の網と、四本のペットボトルだけが並ぶ集積所があった──その数が「五本」になった日から、私は遠回りをするようになった。
晩酌怪談

瓶の数え方

毎朝、瓶を数え、同じ三人の足音で時刻を知る——ある朝、一本だけ増えた。数が合った翌日、路地は静かなままだ。
ウラシリ怪談

休館日の返却

臨時休館の静けさの中、翌朝のログにだけ“誰かの作業”が増えていたそうです…
ウラシリ怪談

鍵束の異物

交番の保管棚には、拾得された数十本の鍵が金具で束ねられていたそうです。家の鍵、車の鍵、自転車の鍵……番号札が一つずつ付けられ、誰が見ても整然としていたといいます。しかしある夜勤の署員が数を確認すると、昨日より一本多くなっていたそうです。新たな届け出はなく、署員の誰も追加していないのに、束の中に見慣れない鍵が紛れていたといいます。不審に思い、その鍵を取り出すと、刻印も番号もなく、先端には黒ずんだ焦げ跡のような痕が残っていたそうです。さらに溝には細い毛や、爪の欠片のようなものが詰まっていたといいます……。日を追うごとに、同じように“届けられていないはずの鍵”が束に増えていったそうです。それらはいずれも、使用の痕跡が不自然に生々しく、まるで何かを無理やりこじ開けた直後のようだったといいます。最後に見つかった一本は、署員が腰に提げていた自宅の鍵とまったく同じ形をしていたそうです。ただしその鍵だけは、まだ誰も使っていないはずなのに、握った感触が冷たく湿っていたといいます……。この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに...