門の歯列

写真怪談

夜十時を過ぎると、中庭に並ぶ足元灯のうち、煉瓦門に近い三つだけが白くなった。それ以外は古い電球のような橙色なのに、その三つは病院の処置灯を思わせる冷たい光を地面へ落とす。建物の夜間管理規則には、用途の分からない注意書きが一行だけあった。

「白灯時に門を通過した者は、全灯が橙色へ戻るまで再通過しないこと」

夜間清掃に入った千田は、人感センサーの誤作動を避けるためだろうと思っていた。ある晩、仕事を終えた千田は中庭を横切り、煉瓦造りの門をくぐった。門の外へ出てから、事務室に鍵束を置き忘れたことに気づいた。振り返ると、三つの足元灯はまだ白かった。建物までは一分もかからない。規則を破ったところで何が起きるわけでもない。千田は門を引き返した。

煉瓦のアーチの真下へ入った瞬間、上下の奥歯が強く噛み合った。自分で力を入れたのではなかった。顎の筋肉が内側へ引かれ、歯と歯の間で硬いものが砕けた。耳の奥まで、ざり、と湿った音が響いた。千田は門を抜けるなり口元を押さえた。血は出ていなかった。舌で歯を確かめても、欠けた場所はない。口から吐き出されたのは、赤褐色の小さな粒だった。煉瓦の粉に見えた。

翌朝、門の内側に白いものが浮いていた。煉瓦と煉瓦をつなぐ灰色の目地から、象牙色の半円がほんの少し突き出している。昨夜まではなかったものだった。千田が爪でなぞると、左下の奥歯に冷たい痺れが走った。白い半円の表面には、人間の臼歯と同じ細い溝があった。

気味が悪くなり、その日は触れずに帰った。ところが次の夜には、白いものが二つに増えていた。翌々日には三つ。門を一度くぐるたび、目地から新しい歯が一本ずつ押し出される。その順番に合わせるように、千田の口の中から感覚が消えていった。

歯そのものは残っている。鏡で見ても形は変わらない。歯科医院でレントゲンを撮っても、抜けた歯はないと言われた。ただ、壁に歯が増えるたび、口の中の同じ位置から硬さも冷たさも感じられなくなった。熱いコーヒーを飲んでも分からない。氷を噛んでも分からない。食事をしている最中、自分が肉を噛んでいるのか、舌を噛んでいるのかさえ分からなくなった。

十六本目が現れた夜、足元灯は門から遠い順に白くなった。一つ、二つ、三つ。冷たい光が中庭を這い、木々の根元を順番に照らしていく。白光が当たった地面には、赤い煉瓦粉が細い弧を描いて浮かんだ。それらはすべて、門の方向へ向いていた。中央の丸い蓋の周囲には、小さなくぼみが並んでいた。上に十六、下に十六。人間の歯列と同じ数だった。

千田はその夜、壁から歯を取り戻そうとした。門の目地へドライバーを差し込み、最初の一本をこじった。白いものは驚くほど簡単に抜けた。先端だけではなかった。細長い根がついていた。根の周囲には赤黒い肉片が薄く絡み、抜いたばかりの歯のように掌の上で微かに温かかった。

その瞬間、千田の口の中で何かが落ちた。舌で触れると、左下の奥歯が消えていた。血は出ていない。歯茎には空洞すらなかった。そこにはざらついた赤い面があり、舌先へ細かな砂が付着した。煉瓦だった。

門の内側で、低い振動が始まった。目地に埋まっていた歯が、一本ずつ奥へ引っ込んでいく。ぎり。ぎり。音は門からではなく、千田自身の頭蓋骨の中から響いていた。逃げようとした千田は、建物側へ駆け込むため、もう一度アーチをくぐった。

白灯が消えた。代わりに、口の中へ硬いものが一斉に押し込まれた。

翌朝、千田は丸い蓋のそばで発見された。意識はあったが、口を開くことができなかった。唇の隙間から見えていたのは歯ではない。赤褐色の小さな煉瓦だった。一つ一つが歯の大きさに削られ、灰色の目地材で上下の顎へ隙間なく積まれていた。煉瓦門のほうには、人間の口ほどの欠損ができていた。失われた煉瓦の数と、千田の口に詰め込まれていた数は、ぴったり一致していたという。

門は補修され、夜間管理規則も撤去された。それでも雨の夜になると、新しい目地の表面から象牙色のものが浮き出す。まだ完全な歯ではない。白い先端だけが、内側から煉瓦を押している。そして白い足元灯が点いているあいだに門を二度くぐった者は、翌朝、奥歯の隙間から必ず赤い砂を吐く。

中庭の丸い蓋には今も、三十二個の浅いくぼみが残っている。雨水が溜まると、それらは一本ずつ濡れて光る。門が次に揃えようとしている歯のように。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

この怪談の怖さを評価する

星を押して、怖さを5段階で評価してください。

平均評価 0 / 5. 読者の怖さ評価 0

まだ評価はありません。最初の評価をお願いします。

 

タイトルとURLをコピーしました