境界

写真怪談

門の歯列

夜の中庭にある古い煉瓦門には、閉館後だけ守られる奇妙な通行規則があった。それを破った男の身体で、門の補修が始まる。
ウラシリ怪談

六分後の網目

夏の昼すぎ、海上の網はロケットのブースターを待っていました――けれど、その網には帰還よりも早く、小さな誰かが横たわっていたそうです。
写真怪談

空を塞ぐ環

頭上を巻く高速道路の下で、橋脚の影だけが輪になって縮みはじめる。
写真怪談

シャッターの隙間

半分だけ下りたシャッターの奥で、荷物は“積まれている”のではなく、少しずつ高さを預けていた。
写真怪談

苔下の重し

林の奥に積まれた古いブロックは、捨てられたものではなく、何かを押さえ続けるための“重し”だった。
写真怪談

門のない郭

かつて塀と堀に囲われた旧遊郭の大門跡。今は何もないはずの街角に、古い絵葉書の“印刷の粒”だけが戻ってくる。
写真怪談

握り返す継ぎ目

遅延した満員電車で、連結部分の手すりだけが、人の手の温度を覚えていた。
写真怪談

隙間の腹

都心の住宅地にある、家と護岸のあいだの細い隙間。そこにうずくまっていたものは、動物に見えた。けれど、それは足で歩くものではありませんでした。
写真怪談

裏葉の橋

新緑に包まれた白い橋。その下で、葉は裏返り、石は誰も渡らない橋を作り始める。
写真怪談

黄色い戻り道

雨の日の駅出口にある黄色い点字ブロックは、人を導くためではなく、誰かを戻すために濡れていたのかもしれません。
ウラシリ怪談

一皿目の客

国を結ぶはずの夕食会で、招かれていない一皿だけが、次の故郷を待っていたそうです。
写真怪談

金網の底

山中の高架下で見上げた金網には、上から落ちたのではないものが引っかかっていた。
写真怪談

錠前の内側

山奥の高速道路とバイパスに挟まれた、施錠済みの小さな物置小屋。道路整備員がそこで見た南京錠は、開ける側だけを“内側”へ向けていた。
写真怪談

水面の継ぎ目

昼の高架下、水面にだけ実在しない階層が映る――その継ぎ目を見てしまった者に残る、黒い指の痕跡。
写真怪談

赤い支柱の借家

夕方の路地に立つ小さな巣箱は、鳥ではなく、部屋から抜け落ちた“居た感じ”を少しずつ借りていた。
写真怪談

砂の列、停車しないもの

バス停の脇にできた小さなアリの巣。出入りしているのは、たった三匹だけ――それなのに、待つ人が多い日ほど、砂の筋は少しずつ太くなっていった。
写真怪談

石の向き

晴れた昼だけ妙に静かなあの細道で、足元の小石は、誰のために向きをそろえていたのでしょうか。
写真怪談

登り痕

塀の上に揃えて置かれた黒い革靴。誰が捨てても翌朝には戻り、今度は「上」に向かう足跡だけが少しずつ増えていきます。