積二トンの夜

写真怪談

商店街のその細い道は、夜になると看板の光だけが妙に強くなる。白い街灯より、店先のピンクの光のほうが路面に深く染みて、舗装の継ぎ目や電柱の影まで、濡れているように見えた。

通り沿いの店で閉店作業をしていた人が、最初におかしいと気づいたのは、午後六時を過ぎた直後だったという。

店先の近くには、赤い丸の標識と、荷台の絵がついた「積2t」の小さな標識が並んでいる。昼間は誰も気にしない。けれどその夜、通りを自転車が一台抜けたあと、柱の金具が低く鳴った。

風ではない。大型車も入っていない。むしろ道は軽かった。人通りもなく、遠くの電線だけがかすかに震えていた。

それなのに、店の冷蔵ケースのガラスには、通りの奥から黒いものが近づいてくるのが映っていた。実際の道を見ても何もいない。ガラスの中だけで、荷台の形をした影が、音もなく横へ滑ってくる。

翌朝、標識の柱の根元の舗装が四角く沈んでいた。タイヤの跡はない。ただ、荷物を載せた台をそのまま地面に押しつけたような平たい窪みが、店の入口のほうへ一段だけずれていた。店主は配達業者のせいにしたが、その日、どの業者もあの道には入っていなかった。

二日目の夜、同じ時刻にまた自転車が通った。乗っていた人は一人だった。だが通り過ぎた瞬間、サドルの後ろではなく、その横の空気だけがぐっと沈んだ。まるで見えない荷が、車体とは別に並んで運ばれているようだった。

柱の金具がまた鳴った。今度は一回では済まなかった。ぎし、ぎし、と、何かを計っているように鳴り、標識の白い板が内側へ少し反った。

店の人は怖くなって、冷蔵ケースの明かりを消した。するとガラスに映っていた通りも消えた。だが完全な暗がりになったはずの表面に、「2t」の数字だけが残ったという。白く光るのではない。ガラスの内側から、誰かが指で押して曇らせたように、二とtだけが浮いていた。

三日目、店主は閉店前に段ボール箱を柱のそばへ置いた。空箱だった。何かが通るなら、ぶつかって動くと思ったらしい。

午後六時を少し回ったころ、通りの奥から自転車のベルが一度だけ鳴った。姿は見えなかった。だがピンクの光が、路面の上で横に裂けた。箱は倒れなかった。ただ、上から押されたように、ふたの中央だけが深く潰れた。

駆け寄った店主は、箱を持ち上げようとして腰を抜かした。

空のはずなのに、動かなかった。

二人がかりでも持ち上がらず、底を覗くと、中には何も入っていない。ただ段ボールの内側いっぱいに、黒い湿った跡が広がっていた。人の形ではない。荷台の形でもない。もっと不規則で、いくつもの重さを一つに重ねて押し固めたような染みだった。

その夜から、あの道では午後六時を過ぎると、誰も店のガラスを見ない。

実際の通りには何も来ない。自転車が一台、静かに過ぎるだけの日もある。けれどガラスには、その横を同じ速さで進む黒い荷が映る。見えない車輪も、見えない人影もなく、重さだけが道を通っていく。

今も柱の根元には、四角い窪みが残っている。舗装を直しても、翌朝にはまた沈むらしい。

そして「積2t」の標識だけが、少しずつ下へ傾いている。

あの道に入ってよい重さを示しているのではない。

あそこを通るたび、誰かの横に積まれていく重さが、もう二トンに近いという印なのだそうだ。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

タイトルとURLをコピーしました