右足の靴下を脱いだとき、内側に灰色の羽毛が一周していた。
短い綿毛だった。縫い目に絡んだのではなく、布の繊維から直接生えたように、すべての先端が上を向いている。
佐和子はその日、ある地方都市の城址公園にある案内所で遅番を終え、堀沿いの道を歩いて帰った。
夕暮れはほとんど夜に沈みかけていた。水面は黒く、対岸の石垣と木々を鈍く映している。堀へ張り出した枝には、数羽の鷺が止まっていた。
低い枝から高い枝まで、互い違いに並んでいた。
どの鷺も鳴かず、羽づくろいもしない。首だけを折り畳み、暗くなる水を見下ろしていた。
佐和子が木の下を通ったとき、泥を掘り返したような匂いがした。
同時に、両足首へ圧力がかかった。
水に入った感覚だった。
靴も道も乾いていた。それなのに足首から下だけが重くなり、耳の奥で、ごぼ、と小さな泡が潰れた。
振り返ると、いちばん低い枝の鷺が片脚を上げていた。
ただそれだけだった。
靴下の羽毛は、指で引くと簡単に抜けた。ところが抜いた穴から、黒い雫が一滴ずつ染み出した。
水ではなかった。
指につけて嗅ぐと、堀の底に積もった泥と、古い鳥の巣を混ぜたような臭いがした。
翌日も、同じ時刻に堀沿いを通った。
低い枝は空になっていた。
残った鷺は、前日より高い場所に止まっている。
木の横へ差しかかった途端、圧力が膝まで上がった。衣服の中を冷たい水が満たしていくようだったが、手で触れても濡れてはいない。
帰宅してズボンを脱ぐと、両膝の内側に羽毛が生えていた。
今度は布からではなかった。
皮膚に細い穴が並び、そこから灰色の羽が一本ずつ出ていた。どれも膝を取り巻くように生え、先端を上へ向けていた。
一本を毛抜きでつまんだ。
引くほどに長い。
羽軸の根元から、濡れた水草が糸のように続いて出てきた。途中で切れると、皮膚の穴の奥から水音がした。
その次の日、佐和子は別の道を使った。
それでも夕暮れになると、堀の臭いがした。
圧力は腰まで上がった。
職場の更衣室で制服を脱ぐと、下着の縁に沿って灰色の羽毛が並んでいた。同僚が見ている前で、その帯はゆっくり一センチほど上へ動いた。
羽が歩いたのではない。
下の毛が皮膚へ沈み、上の皮膚から新しい毛が生えたのだ。
その晩から、音の聞こえ方も変わった。
腰より下で鳴ったものだけが遠い。床へ落とした鍵も、浴槽の栓を抜く音も、水の底から聞いているようにくぐもった。
佐和子は三日間、仕事を休んだ。
それでも圧力は腹へ、胸へと上がってきた。
日没のたびに灰色の帯が一本ずつ現れた。羽毛の下の皮膚は冷え、針を刺しても痛みを感じなかった。
胸まで覆われた夜、眠っている間に口から小魚が一匹出た。
白くふやけ、目のない魚だった。
まだ尾だけが動いていた。
佐和子は公園の警備員に付き添われ、夕暮れ前の堀へ戻った。
木には鷺がいた。
低い枝には一羽もいない。
胸の高さに見える枝にもいない。
残っているのは、木の上部に止まった一羽だけだった。
空が青から黒へ変わり始める。
佐和子の胸を締めつけていた圧力が、ゆっくり喉へ上がった。
髪が風もないのに浮き上がった。
警備員の声は聞こえたが、言葉にはならなかった。水中から呼ばれているように、低く歪んでいた。
高い枝の鷺が首を伸ばした。
その瞬間、佐和子の口が勝手に開いた。
喉の奥から、何か硬いものがせり上がった。
警備員が背中を叩くと、佐和子は灰色の塊を吐き出した。
濡れた羽毛が、人間の指ほどの太さに固まっていた。
中央には一本の長い羽軸が通り、その先端には、薄い皮膚が爪のように付着している。
皮膚には佐和子の指紋があった。
枝の鷺が翼を広げた。
飛び立った直後、堀の中で大きなものが身をよじる音がした。
水面は揺れなかった。
ただ、木の真下から対岸まで、泥の臭いだけが細長く移動していった。
病院で調べても、佐和子の肺にも気管にも水はなかった。
身体に生えていた羽も、翌朝にはすべて抜け落ちた。
だが喉を一周する小さな穴だけは残った。
穴の内側をライトで照らしても、底は見えない。耳を近づけると、ときどき水鳥が羽ばたく音がするという。
吐き出した塊は、密封袋に入れて保管された。
翌朝には羽毛が消え、代わりに細長い人間の皮膚が入っていた。
片面には佐和子の指紋。
もう片面には、鷺の脚が枝をつかんだような、三本の深い痕が残っていた。
佐和子はもう、その城址公園へ近づいていない。
それでも逢魔が時になると、襟の内側に灰色の羽毛が一周する。
毎回、前の日より少しだけ高い位置に生える。
昨夜の羽毛は、下唇のすぐ下にあった。
すべての羽先が、口の中へ向いていた。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。


