記録と痕跡

写真怪談

半額の重さ

閉店間際のスーパーで貼られる半額シールは、何を半分にしているのか。
写真怪談

五百ミリの欠番

終電帰りに買った一本の缶は、飲む前から少しずつ“減って”いた。
ウラシリ怪談

三時間以内の線

避難所の床に、まだ来ていないはずの水位だけが先に残っていたそうです。
ウラシリ怪談

配布床

津波ではない水が、避難所の床下から名簿を濡らしていく――揺れのあとに増えた空欄は、誰のためのものだったのでしょう。
写真怪談

撤去済みの灯り

撤去したはずの蛍光灯本体が、まだどこかの部屋を照らしている――路地に積まれた廃材から始まる、静かな撤去の怪異。
晩酌怪談

つゆ跡の鳥

普通の昼食だったはずの、もりそばとミニ鳥丼。けれど食後のレシートには、紙の内側から出ようとしたような黒い跡が残っていた。
写真怪談

門のない郭

かつて塀と堀に囲われた旧遊郭の大門跡。今は何もないはずの街角に、古い絵葉書の“印刷の粒”だけが戻ってくる。
写真怪談

掌の送り状

いくつもの線路を見下ろす歩道橋で、掌の線だけが送り状の押印欄として失われていく。
写真怪談

未体験の充電

店先の充電箱は、スマホではなく、そこに置いた人の“残り”を満たしていく。
写真怪談

三人目の乾き

雨の夜、赤い傘と白い傘の横にだけ、濡れない場所がついてきていた。
ウラシリ怪談

1995の空席

金利を決めるはずの会議室で、誰のものでもない椅子だけが、先に着席を待っていたそうです。
ウラシリ怪談

六万軒目の搭乗口

欠航の空港で配られた整理券、その六万枚目だけが、どこにも飛ばない搭乗口を示していたそうです。
写真怪談

色のない川

夜の高架下、色を失った川面にだけ、現実にはいない後ろ姿が映っていた。
写真怪談

橋裏の水位札

橋の下に貼られた小さな水位札は、ただの管理表示ではありませんでした。水面に残る線と、写らないはずの足跡が、少しずつこちら岸へ近づいてきます。
写真怪談

下り道の印

坂を下りきったはずなのに、家だけが町から消えている。壁に残った白い数字は、誰の住所を数えているのか。
ウラシリ怪談

千五百二十一番目の小間

存在しないはずの小間番号だけが、来場証の裏に薄く浮かんでいたそうです。
写真怪談

出発済の信号

赤信号が点いたのは、列車を止めるためではなく、すでに出発してしまった何かを記録するためだったのかもしれません。
写真怪談

縞に読まれる朝

朝のオフィス街で、誰もが同じ方向へ歩いている――その足元の縞だけが、人を静かに読み取っていた。