梢の首数

写真怪談

その公園では、昼でも奥の木立に入ると、急に音が軽くなる。

砂利の道、低い木柵、背の高い針葉樹。晴れていれば葉の上はまぶしいほど明るいのに、地面には濃い影が縞になって落ちる。散歩の人も多く、何も不気味な場所には見えない。

ただ、管理事務所の人は昔から、あのあたりで頭上を数えないほうがいい、と言っていた。

鳥の数ではない。枝の数でもない。

首の数だという。

その日、公園のベンチで休んでいた女性は、望遠レンズ付きの小さなカメラを持った初老の男性を見かけた。男性は道の端に立ち、帽子のつばを上げて、木々の上のほうを何枚も撮っていた。鳥を探しているようにも見えたが、シャッターを切るたびに、少しだけ首を傾ける。

おかしいのは、シャッター音だった。

男性の手元のカメラからではなく、もっと高いところ、枝の奥から、ぱち、ぱち、と返ってくる。

最初は反響だと思った。けれど、男性がカメラを下ろしても、上からの音だけは続いた。ぱち。ぱち。ぱち。まるで、今度は木のほうが、地面の人間を撮っているようだった。

女性は気味が悪くなって立ち上がった。その時、木漏れ日が少し揺れた。

風はなかった。

それなのに、男性の足元に落ちていた影だけが、先に首を上げた。

人の影なら、体の動きに合わせて伸びる。だがその影は、男性本人がまだ上を向いているのに、地面の上でこちらを見返すように、細い首の形だけを曲げた。顔はない。ただ、帽子のつばに似た黒い弧が、影の先に浮いていた。

女性は目をそらした。もう一度見た時、影は元に戻っていた。

数日後、管理事務所に一台のカメラが届けられた。

木柵のそばに落ちていたという。持ち主を探すため、職員が中の画像を確認した。写っていたのは、その日の公園だった。背の高い木々。明るい緑。砂利道。遠くを歩く人。

そして、望遠で撮ったはずの梢の写真が何十枚も続いていた。

一枚目には、枝の隙間に小さな白い点があった。鳥にしては丸く、花にしては位置が高すぎる。

二枚目では、それが二つに増えていた。

三枚目では、五つ。

十枚目を過ぎるころには、白い点は枝ごとに並び、どれも同じ高さで、こちらを向いているように見えた。拡大すると、点の下に細い筋がついていた。

首だった。

顔ではない。首から上だけが、白くぼやけて枝の間に吊られている。肌の色でも、木肌でもない。写真の露出が飛んだような白さで、どれも少しずつ帽子をかぶっている。

最後の一枚だけ、構図が違っていた。

それは上から撮られていた。

砂利道に立つ初老の男性が、カメラを構えて梢を見上げている。男性の周りには、ほかの散歩客も、木柵も、影も、すべて写っている。

ただ、男性の首だけがなかった。

代わりに、彼の帽子のつばが、ずっと上の枝の間に白く引っかかっていた。

職員は慌てて警察に届けた。けれど、行方不明者の届出は出ていなかった。写真の男性に似た人を見たという話も、その日以降はない。

カメラは保管されたが、画像の数だけは今も変わるという。

最初に確認した時、梢の写真は三十七枚だった。

翌週には三十八枚。

その次の週には三十九枚。

増えた写真はどれも同じ場所を写している。枝の奥の白い首が、一つずつ増えていく。

そして最近、管理事務所の人が気づいたそうだ。

新しく増えた一枚の下端に、低い木柵と、砂利道と、ベンチに座る女性の後ろ姿が写っていた。

その女性は、もう何年も前に引っ越している。

なのに写真の中の彼女は、いま初めて何かに気づいたように、ゆっくりと頭上を見上げようとしている。

公園の木立では、今日も鳥の声に混じって、時々、ぱち、と乾いた音がする。

数えてはいけない。

けれど、音が鳴るたび、梢の白い点は、確かにひとつずつ増えているのだという。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

タイトルとURLをコピーしました