線路を跨ぐ古い橋には、妙な言い伝えがあった。
頭上を横切る太い鉄柱を、渡りながら一本ずつ目で追ってはいけない。
理由を知る者はいない。ただ、昔から近所の人間は子どもにそう教えてきたという。
そんな話を聞いたのは、橋を渡り終えたあとだった。
笑い話だと思い、撮った写真を見返した。
最初は何もおかしくなかった。
何本もの鉄柱が左右へ伸び、その下を電車が走っているだけの、どこにでもある都市の風景だった。
だが翌日、同じ写真を開くと、一番奥の鉄柱が一本増えていた。
配管でも電線でもない。
空中に浮かぶように一本だけ増え、その影だけが線路へ落ちている。
撮影時の記憶にはない。
画像の情報にも編集履歴はない。
それでも見れば見るほど、「最初からそこにあった」と思えてくる。
数日後には二本。
さらに一週間後には三本。
鉄柱は一本ずつ手前へ移動しながら増えていた。
不思議なのは、増えた鉄柱の下だけ、線路に敷かれた砕石が妙に黒く濡れて見えることだった。
現地へ行っても、そんな鉄柱は存在しない。
橋の上から見ても、写真の位置にあるはずの一本が見つからない。
写真だけが、現実より先の景色を写している。
気味が悪くなり、その画像を削除した。
ゴミ箱も空にした。
それで終わったと思った。
数週間後、別の日に撮った旅行写真を整理していると、見覚えのある鉄柱が一本だけ写っていた。
海辺の写真だった。
鉄道など近くにない。
それなのに、水平線の上を横切る一本の鉄柱。
その影だけが、海ではなく砂浜へ真っ直ぐ落ちていた。
以来、どんな景色を撮っても、しばらくすると鉄柱が一本増える。
山でも。
駅でも。
室内でも。
必ず画面を左右に横切る。
そして本数が増えるほど、写真の中から人が消えていく。
最後まで残るのは景色だけではない。
鉄柱の下には、いつも一本だけ線路がある。
どこへも続いていないはずの、その線路だけが。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。


