横浜の海沿いにある大きな展示場で、車と移動技術の見本市が始まった日のことだそうです。
会期は三日間。開場は朝十時から夕方五時まで。
事前登録を済ませた来場者が、首から入場証を下げて、明るい通路をゆっくり流れていました。
展示の小間数は、資料では千五百二十一とされていたそうです。
会場案内の紙にも、入口の掲示にも、配布された薄い地図にも、同じ数字が印刷されていました。
ただ、初日の午前中から、案内係のあいだで妙な話が出ていたといいます。
「千五百二十一番の小間は、どこですか」
そう尋ねる来場者が、何人かいたそうです。
けれど、地図にはその番号がありませんでした。最後の小間番号は、別の場所で途切れていました。
係員は、数字を見間違えたのだろうと思ったそうです。
広い会場です。企業展示、企画展示、講演、車両展示。案内表示はいくつもあり、似た番号も多かったといいます。
それでも、昼を過ぎるころには、同じ質問が増えていきました。
「北の奥にあると聞いた」
「オンライン会場では表示されていた」
「登録証をかざすと、そこへ進めと出た」
そう言う人たちは、年齢も服装もばらばらでした。
ただ一つだけ、皆が少し困ったように、入場証の裏を指で撫でていたそうです。
午後三時ごろ、若い案内係が一人、会場の北側へ確認に向かいました。
そこは大型の展示物が並ぶ一角で、床に太いケーブルが這い、白い照明が車体の金属面に反射していました。
通路の先は壁で、関係者用の扉が一枚あるだけだったそうです。
その扉の横に、小さな立て札が出ていました。
「1521」
黒い数字だけが印刷された、何の装飾もない札だったといいます。
社名も、展示名も、説明文もありません。小間の区切りを示す床のテープもなく、ただ灰色の床に、車輪の跡のような細い曲線が残っていました。
若い案内係は、無線で確認しようとしました。
その時、関係者用の扉の向こうから、低い回転音が聞こえたそうです。
エンジン音ではなかったといいます。
モーター音でも、空調でもない。もっと遠く、もっと古い、湿った車輪がゆっくり回るような音でした。
扉には鍵がかかっていました。
それなのに、扉の下の隙間から、黒いタイヤの先だけが少し見えたそうです。
幅の狭い、子ども用の玩具のような車輪でした。
しかし床に残った跡は、人の肩幅ほどもある大きな円を描いていました。
案内係は、すぐに人を呼びました。
数分後、別の係員と警備員が来た時には、立て札はなくなっていたそうです。扉の下にも何も見えませんでした。
ただ、床の車輪跡だけが増えていました。
一本ではありません。
いくつもの円が重なり、まるで何台もの見えない車が、狭い場所で同じ方向へ旋回し続けたようだったといいます。
その日の閉場後、会場全体の確認が行われました。
登録者の滞留、忘れ物、展示物の破損、いずれも異常なし。配布された地図にも、会場側のデータにも、「1521」の小間は存在しなかったそうです。
けれど、回収された入場証のうち数枚だけ、裏面の白い部分に、同じ印字が浮かんでいました。
「17:00以降、1521へ戻ること」
印字は熱で焼けたように薄く、指でこすると消えたそうです。
消えたあとには、紙の繊維の中に、細い車輪跡だけが残っていました。
二日目の朝、北側の壁際には、何もありませんでした。
ただ、開場前の清掃記録に、一つだけ短い追記があったといいます。
「小間の内側を清掃済み」
その展示会に、内側のない小間が一つだけあったのかもしれません。
記録は、その行だけ筆圧が強く、誰が書いたものか、今も確かめられていないそうです。
この怪談は、以下の記事をきっかけに生成されたフィクションです。
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