機械知のほとり

ウラシリ怪談

三十日目の返品窓

買い物は、選ぶものだったはずです。けれど、三十日間だけ開いた返品窓の向こうで、選ばれていたのは別のものだったのかもしれません。
写真怪談

赤で空く車線

昼の交差点、赤信号のたびに「バス専用」の車線だけが、誰も乗らないはずの扉を開けていた。
写真怪談

黒壁のぬるさ

自販機の冷たい光に挟まれた黒い壁だけが、夜ごとに人肌のぬるさを帯びていく――。
写真怪談

空表示の下

高架下の歩道で、緑の「空」表示だけが、夜ごと違うものの空きを数えていた。
ウラシリ怪談

113体目の落札箱

落札したのは、112体のぬいぐるみだったはずでした。けれど6箱目には、数えてはいけない“門”が混じっていたそうです。
写真怪談

歩幅の返却口

横断歩道へ出るだけの短い隙間で、消えた一歩はどこへ返されるのか。
写真怪談

二十時五十六分の隙間

午後8時56分、ホームの時計だけが知っている三分間。電光掲示板が20:59を示したとき、足元の黄色い点字ブロックに残っていたものは――。
写真怪談

畝に落ちる線

四月の終わり、晴れた貸し畑に落ちるはずのない六本目の線。その先は、蔦に覆われた家の中へ続いていました。
ウラシリ怪談

十五時三十分の咳払い

送られていないはずの会議URLが、予定表に先に現れました。そこに書かれていたのは、ただ一文字の異変でした。
ウラシリ怪談

三人目の旅程

4/22の「よい夫婦の日」に合わせた旅行アンケートへ答えただけでした。なのに印刷された旅程表は、二人ぶんでは終わらなかったのです。
写真怪談

外壁の窓

トンネルの中を走るはずの電車が、ある日から外壁のほうに窓を並べ始めました。
写真怪談

定時の遊具

毎日同じ時間、同じ遊具に座って中国語で電話をかける男。近所では見慣れた光景だったはずなのに、誰もいない日にだけ“通話の続き”が始まりました。
写真怪談

継ぎ輪

昼の路地で、電気の唸りが二拍だけ止むたび、外壁の配管に“ありえない継ぎ目”がひとつずつ増えていく。
写真怪談

八羽目が降りない

花の終わった桜の隙間に立つ古いアンテナには、毎年この時季だけ、声を出さない雀が増えていく。
ウラシリ怪談

到着予定

延期されたはずの月計画で、まだ使われていない予定欄だけが先に社内を歩き始めたそうです。
写真怪談

送風跡

電源を落としたはずの弱冷房車の屋根だけが、夜ごと少しずつ冷えた跡を伸ばしていく。
写真怪談

検知枠

防犯アプリが二重に送ってくる通知には、いつも“一人ぶん足りない”何かが写っていました。
ウラシリ怪談

受け身のいない床

追加キャラクターの動きが完成した夜から、誰もいない床が受け身を取りはじめたそうです。