説明のつかない痕跡

写真怪談

送風跡

電源を落としたはずの弱冷房車の屋根だけが、夜ごと少しずつ冷えた跡を伸ばしていく。
写真怪談

踊り場の白線

夜の白い階段には、見えている十一段のほかに、どうしても数に入らない「余った一段」がある。踏むたびに失くすのは、足場ではなく時間のほうだった。
写真怪談

白幕

工事現場の白い幕が、人の通行を数秒遅れて真似しはじめた路地。布の向こうには、誰も通れないはずの幅しかなかった。
写真怪談

口移し

苺餡と芋餡のたい焼きを並べた夜だけ、ショーケースの内側には、向かい合った吐息のような曇りが二つ残る。
写真怪談

口火

最後のひとりが喫煙所を出たあとも、一本ぶんだけ煙が帰ってこない夜がある。
写真怪談

花芯

花見客で賑わう桜並木で、落ちた花びらの“芯”だけが揃って赤くなる区間がある。冗談のような迷信を調べた先で、春の道が何を抱えたまま咲いているのかを知ってしまう。
写真怪談

青札

駅前の駐輪場に、ときどき「日付のない青札」が下がる。その札に触れた自転車は、夜のうちに一度だけ誰かを送りに出るらしい。
晩酌怪談

二つ目の輪

一杯のそばを啜るたび、少し遅れてもうひと口ぶんの音が返った。誰もいないはずの卓上には、食べ終わるたびもうひとつの痕跡が残った。
写真怪談

拾球当番

夕暮れの住宅街で、投光器が点く前にだけ家の中から鈍い音がする。翌朝なくなっているのは、なぜか決まって“丸いもの”だった。
写真怪談

進入禁刻

藪に埋もれた「進入禁止」の時間だけが、毎日こちらへ寄ってくる。
写真怪談

籠に残る指跡

夜の路地、窓明かりの下の自転車籠に、三本指の“握り跡”が残り続ける――そして、ある朝から形が変わった。
写真怪談

交差影の結び目

深夜三時、杭よりも濃く伸びる影の“交差”を一度踏んでしまった――写真は、あとから数を増やしてくる。
写真怪談

目地が増える

舗道の円い蓋のまわりだけ、苔が“縫い付けられた”ように増えていく──その写真が、いつの間にか更新されていた。
写真怪談

白屋根の欠番

駅前ロータリーの白い屋根の下で、列にいるはずの一台が“欠番”になっていく夜。
ウラシリ怪談

二日分のスタンプ

二日間だけのはずだった催しの記録が、終わったあとも“二十秒ずつ”増え続けるそうです。
写真怪談

継ぎ目へ続く通路

黒い外壁に挟まれた裏通路の点検写真――ただそれだけのはずが、画面の中の道は「次の瞬間」から伸び始めた。
ウラシリ怪談

玄関がまだ外だった

「裏から見ても同じに読める」札を玄関に掛けた家で、境目そのものが迷いはじめた――そんな噂です。
写真怪談

消したはずの渦

住宅地の外れの角にある“程度の低い落書き”は、見るたびに少しずつ形を変えていった。