葉を噛む木面

写真怪談

路地裏の古い喫茶店の入口に、木彫りの大きな顔が置かれていた。

南の国の土産物のようにも見えるが、店主は詳しいことを知らない。ただ、先代から一つだけ言われていたそうだ。

「葉っぱを口にかけるな。目は隠れてもいい。口だけは空けておけ」

店先には観葉植物が多く、春から夏にかけて葉が伸びる。写真のように、明るい緑の葉が木彫りの顔へかかることもあった。最初は誰も気にしなかった。葉が口元に触れていたところで、ただの飾りだからだ。

異変に気づいたのは、昼の掃除をしていたアルバイトだった。

木彫りの下唇に、薄い緑の汁がついていた。葉の汁にしては妙に粘り、拭くと布の繊維が細かい木くずを巻き込んだ。口の前にかかっていた葉を見ると、先端だけが丸く欠けている。虫食いの穴ではない。縁に、細かい横線が何本も残っていた。まるで、目の粗い歯でゆっくり噛み切ったような跡だった。

その日から、店主は毎朝、口元の葉を払うようになった。

だが翌朝には必ず、別の葉がそこへ垂れている。鉢の位置を変えても、枝を紐で留めても、気づくと一枚だけが木彫りの口へ差し出されていた。葉の裏には湿った跡がつき、葉脈の間だけが灰色に変わる。木彫りの顔のほうには、噛んだあとに残る唾液のような艶が増えていった。

ある閉店後、店主は思い切って口元の枝を短く切った。

翌朝、切り口は見つからなかった。切ったはずの葉柄が、木彫りの口の隙間に一本ずつ差し込まれていたからだ。しかも外から押し込んだのではない。木目が唇の内側で割れ、柔らかい歯茎のように葉柄を包み込んでいた。引き抜こうとすると、木の奥から、湿った箸を折るような音がした。

それ以来、その喫茶店では不思議な苦味が出るようになった。

何も食べていないのに、客が会計のときに口を押さえる。歯の隙間に何か挟まっている、と言う。取り出すと、それは細い緑の繊維だった。葉物を使う料理など出していない店なのに、客の奥歯から、噛まれたばかりの葉脈が出てくる。

店主は木彫りを倉庫へ下げた。

ところが、入口のレンガ壁には、今も細い緑の筋が残っている。鉢は撤去したのに、壁の目地から葉が出る。出たばかりの若葉なのに、先端には最初から噛み跡がある。

一番嫌なのは、その噛み跡が最近、葉の縁だけでは済まなくなったことだ。

店のガラス扉を閉めると、内側に白く曇った跡がつく。人が息を吹きかけたような曇りではない。上下に二列、短い線が並ぶ。

口を開けて、内側からガラスを噛んだ跡に見えるのだという。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

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