点呼にいない者

写真怪談

朝の工事現場では、作業が始まる前に全員が集まり、危険予知や点呼が行われる。

だから、人数には誰よりも敏感だ。

この写真は、向かいのビル二階から撮られたものだった。

フェンスの内側は普段ほとんど見えない。
だから現場で毎朝行われている朝礼の様子を、外部の人間がこれほど見渡せる写真は珍しい。

最初に写真を見た現場所長は、
「今日はこんなに人が入っていたか?」
と首をかしげたという。

応援業者が多かった日だろう、とその場では誰も気にしなかった。

だが、その日の昼休み。

安全担当が朝礼名簿を確認すると、どう数えても写真の人数が一人多い。

応援会社へ確認しても全員一致。
元請けの人数も一致。
警備員も誘導員も、誰一人不足も超過もない。

「数え間違いだろう」

そう片付けられた。

翌週も、同じ位置から撮られた朝礼写真が残っていた。

また一人、多い。

今度は全員が写真を見比べた。

黄色いヘルメットを追っても、
白いヘルメットを追っても、
安全帯の色で追っても、
人数は合う。

それなのに最後だけ、必ず「もう一人」残る。

誰を消せば人数が合うのかが分からない。

全員が実在しているように見える。

だから余計に、一人だけ余る。

現場ではいつしか、朝礼写真を撮ることがやめられた。

理由は誰も説明しない。

ただ、新しく入場した作業員には必ずこう教えるという。

「朝礼が始まったら、隣の人の顔だけは覚えておけ。」

「点呼のあとで、もう一度見ろ。」

理由を尋ねても教えてはくれない。

数か月後、その現場で一人の職長が倒れた。

事故ではなかった。

救急搬送される直前、震えながら同じ言葉だけを繰り返していたという。

「今日もいた。」

「俺の隣じゃない。」

「みんなの隣にいた。」

その意味が分かったのは、救急隊員が現場確認のために撮影した一枚だった。

写っていた全員には、それぞれ左右どちらかに必ず誰かが立っている。

だが、一人だけ。

どの列にも属さず、
どの班にも属さず、
どの名簿にも存在しない作業員がいた。

写真を拡大すると、その男は不自然なことに、誰かの隣に立っている

さらに別の人物を拡大すると、
そこでも同じ男が、その人の隣に立っている。

別の列でも。

反対側でも。

離れた場所でも。

同じ作業着。
同じ白いヘルメット。

誰にでも寄り添うように立ちながら、
決して一人として、その男の隣には立っていない。

写真を閉じても、その違和感だけは消えない。

次に大勢の人が集まる場所で集合写真を見るとき。

人数は数えないほうがいい。

最後に余る一人は、
最初からそこに写っていた人ではないのだから。

朝の工事現場では、作業が始まる前に全員が集まり、危険予知や点呼が行われる。

だから、人数には誰よりも敏感だ。

この写真は、向かいのビル二階から撮られたものだった。

フェンスの内側は普段ほとんど見えない。
だから現場で毎朝行われている朝礼の様子を、外部の人間がこれほど見渡せる写真は珍しい。

最初に写真を見た現場所長は、
「今日はこんなに人が入っていたか?」
と首をかしげたという。

応援業者が多かった日だろう、とその場では誰も気にしなかった。

だが、その日の昼休み。

安全担当が朝礼名簿を確認すると、どう数えても写真の人数が一人多い。

応援会社へ確認しても全員一致。
元請けの人数も一致。
警備員も誘導員も、誰一人不足も超過もない。

「数え間違いだろう」

そう片付けられた。

翌週も、同じ位置から撮られた朝礼写真が残っていた。

また一人、多い。

今度は全員が写真を見比べた。

黄色いヘルメットを追っても、
白いヘルメットを追っても、
安全帯の色で追っても、
人数は合う。

それなのに最後だけ、必ず「もう一人」残る。

誰を消せば人数が合うのかが分からない。

全員が実在しているように見える。

だから余計に、一人だけ余る。

現場ではいつしか、朝礼写真を撮ることがやめられた。

理由は誰も説明しない。

ただ、新しく入場した作業員には必ずこう教えるという。

「朝礼が始まったら、隣の人の顔だけは覚えておけ。」

「点呼のあとで、もう一度見ろ。」

理由を尋ねても教えてはくれない。

数か月後、その現場で一人の職長が倒れた。

事故ではなかった。

救急搬送される直前、震えながら同じ言葉だけを繰り返していたという。

「今日もいた。」

「俺の隣じゃない。」

「みんなの隣にいた。」

その意味が分かったのは、救急隊員が現場確認のために撮影した一枚だった。

写っていた全員には、それぞれ左右どちらかに必ず誰かが立っている。

だが、一人だけ。

どの列にも属さず、
どの班にも属さず、
どの名簿にも存在しない作業員がいた。

写真を拡大すると、その男は不自然なことに、誰かの隣に立っている。

さらに別の人物を拡大すると、
そこでも同じ男が、その人の隣に立っている。

別の列でも。

反対側でも。

離れた場所でも。

同じ作業着。
同じ白いヘルメット。

誰にでも寄り添うように立ちながら、
決して一人として、その男の隣には立っていない。

写真を閉じても、その違和感だけは消えない。

次に大勢の人が集まる場所で集合写真を見るとき。

人数は数えないほうがいい。

最後に余る一人は、
最初からそこに写っていた人ではないのだから。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

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