三人で山のキャンプ場へ入ったのは、九月の終わりだった。昼間はまだ暑かったが、日が落ちると急に冷えた。サイトの周囲は背の高い木に囲まれていて、少し離れた区画の灯りもほとんど見えない。持ってきたランタンを木の枝に吊るし、その下に椅子を並べ、中央に焚き火台を置いた。
椅子は人数より多かった。荷物を置いたり、火のそばへ移動したりするために余分に持ってきたもので、三人とも気にしていなかった。
夜九時を過ぎたころ、一人が薪を取りに立った。残った二人は火を挟んで話していたが、そのうち片方が、木に吊るしたランタンの向こうを何度か見るようになった。森の中に何かいる気がする、と言った。
最初は鹿か何かだろうと思った。ランタンの明かりが届くぎりぎりのところに、木が一本立っている。その幹の横に、白っぽいものが縦に見えていた。葉が光を反射しているだけにも見えるし、人が立っているようにも見える。
薪を抱えて戻ってきた一人に確認してもらったが、近づくと何もなかった。三人とも、そこでいったん忘れた。
それから一時間ほどして、焚き火が少し弱くなった。炎が低くなるたび、周囲の暗闇が一歩ずつ近寄ってくるように見える。木に吊るしたランタンだけが、少し離れたところを白く照らしていた。
その明かりの端に、人が立っていた。今度は全員が見た。
女のようだったという。長い髪が顔の前まで垂れていて、色の薄い上着を着ていた。二十メートルも離れていない。けれど、そこには道も隣のサイトもない。ただ斜面と木が続いているだけだった。
誰かが間違えて入り込んだのかもしれない。そう考えて、一人が立ち上がった。その瞬間、女はいなくなった。
走った様子はなかった。木の陰へ入ったようにも見えなかった。ただ、立ち上がるためにほんの一秒ほど視線を外し、もう一度見たときには、何もない暗がりになっていた。
さすがに気味が悪くなったが、三人とも酒を飲んでいた。見間違いだろうということにした。
ところが、しばらくして一人が急に黙った。火の向こうを見ていた。最初に女が立っていた木より、ずっと近い場所だった。
空いている椅子の後ろに、裸足の足が見えていたという。膝から上は暗くて分からない。焚き火の明かりに照らされた足首と足の甲だけが、草の上に白く浮いていた。
誰も声を出せなかった。その足は、じっと火のほうを向いていた。
三人のうち一人が、恐る恐る人数を確かめた。自分。向かいに一人。左側に一人。三人いる。それなのに、空いている椅子の後ろにも、誰かが立っている。
薪が崩れた。炎が一瞬、大きく上がった。
そのとき女の全身が見えた。髪は濡れているように束になり、顔へ張りついていた。服も胸から下が黒く濡れていた。裸足の両足には泥が付いている。顔は俯いていたが、火が照らした頬だけが、死人のように灰色だった。
そして女は、さっきより近かった。椅子の後ろではない。三人が囲んでいる焚き火の、すぐ外側に立っていた。
誰も、歩いてくるところを見ていない。
一人が反射的にランタンを掴んだ。強い光を女へ向けた瞬間、また姿が消えた。だが今度は、見間違いでは済まなかった。
草が濡れていた。
女が立っていた場所に、裸足の足跡が二つ、はっきり残っていた。しかも、その後ろにもあった。暗い森のほうへ向かって、白いランタンの光が届くぎりぎりまで、濡れた足跡が続いていた。
三人は帰ることにした。テントも椅子も、食器も片づけなかった。火だけは危ないので水をかけた。焚き火台から白い蒸気が上がり、赤かった炭が黒く沈んでいった。
そのとき、一人が変なものを見た。火を消した焚き火台の向こう側に、女がしゃがんでいた。
今度は顔が見えた。目を閉じていた。口だけが、異様に大きく開いていたという。叫んだようにも見えた。けれど声は聞こえなかった。
三人はそのまま車まで走った。誰も後ろを見なかった。
車に乗り込んでドアを閉めると、運転席の一人が人数を確認した。助手席に一人。後部座席に一人。三人。それからエンジンをかけた。
駐車場を出る直前、後部座席の一人が小さな声で、「待って」と言った。
車の床が濡れていた。自分の靴の下ではない。後部座席の中央、誰も座っていない場所に、裸足の足跡が二つ並んでいた。
つま先は前を向いていた。まるで、そこにもう一人座っているような位置だった。
三人は翌朝まで町へ下り、明るくなってからキャンプ場へ戻った。管理人に事情を話し、一緒にサイトまで行った。
荷物は荒らされていなかった。椅子も、食器も、そのままだった。裸足の足跡も消えていた。ただ、焚き火台だけがおかしかった。
昨夜、水をかけて完全に消したはずなのに、灰の中央から細く煙が上がっていた。管理人が火ばさみで灰をよけた。
中から、髪の毛が出てきた。
長い黒髪だった。十本や二十本ではない。ひとつかみにできるほどの量が、灰の下で塊になっていた。
何時間も火を焚いていた場所なのに、その髪は一本も焦げていなかった。濡れていた。管理人が火ばさみで持ち上げると、毛先から透明な水が何滴も落ちたという。
三人の中に、長い髪の者はいなかった。
管理人はそれを新聞紙で包み、ゴミ袋へ入れた。何か心当たりがあるのか尋ねても、知らない、としか言わなかった。ただ、その日はサイトを使わないほうがいいと言われた。
それ以来、三人はそのキャンプ場へ行っていない。車の裸足の跡も、数日すると乾いて見えなくなった。
だが一か所だけ残った。後部座席中央の足元に、右足の親指ほどの黒い染みがある。洗剤で拭いても、内装用のクリーナーを使っても落ちなかった。
雨の日になると、その染みだけが濡れる。そして車内には、ときどき焚き火を水で消したあとの匂いがするという。
三人とも、あの夜に森で見たものについて、もう話さないことにしている。ただ一人だけ、今でも気になっていることがある。
最初に女を見たとき、彼女は灯りの輪の外にいた。
二度目には、空いている椅子の後ろにいた。
最後には、焚き火のすぐそばまで来ていた。
では、車の中に残っていたあの足跡は。
あの女が、どこまで来た跡だったのだろう。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

