苔下の重し

写真怪談

夕方の林では、積まれたブロックの穴だけが、ほかの影より早く暗くなる。

その場所は住宅地の裏に残った小さな雑木林で、境界の目印みたいに、古いコンクリートブロックが何段か積まれていた。苔と泥を噛んだ灰色の塊で、ところどころ欠け、表面には気泡の小さな穴が無数に開いている。誰が置いたのか、いつからあるのか、はっきりしたことを知る者はいなかった。

ただ、近所の年寄りだけは、あれをブロックとは呼ばなかった。

「重し」と呼んだ。

台風で枝が折れ、自治会が林の中を片づけた年、その重しを撤去する話が出た。子どもが登ると危ないし、崩れたら通路を塞ぐ。軽トラックも手配され、若い男たちが二人がかりで一番上のブロックを持ち上げた。

持ち上がるはずの高さで、二人の膝だけが沈んだ。

地面がぬかるんでいたのではない。足跡も残らない。けれど、膝から下を誰かに押さえられたように、二人の体が一瞬だけ低くなった。ブロックは妙に軽かった。中身が抜けた発泡スチロールのように、腕の中で頼りなく浮いた。

その下に、白い粉があった。

石灰でも砂でもなかった。触ると指先がひどく乾き、爪の内側までざらついた。粉は風に散らない。地面の上に、ブロックの底と同じ長方形で張りついていた。よく見ると、その白い面の中央だけが、周囲より数ミリ低い。

誰かが言った。

「置いてあった跡じゃないな」

掘られた跡だった。

次のブロックをどかすと、また同じ白い底が出た。三つ目も、四つ目もそうだった。積んである位置と同じ形で、地面の中に浅い箱がいくつも並んでいる。そこへ、上のブロックが蓋のように乗っていた。

古くから住む女性が、途中で杖をついてやってきた。

「戻しなさい」

誰もすぐには従わなかった。女性は怒鳴らなかった。ただ、白い粉の面を見て、息を浅くした。

「あれは、置いてあるんじゃない。下から来るものを押さえている」

その言い方が大げさで、何人かは笑った。けれど笑い声は、林の奥に吸われるように小さくなった。鳥の声も、車の音も、少し遠い。積み下ろしたブロックの気泡穴のひとつから、ぽろりと緑のものが出た。

苔ではなかった。

細い根だった。切れた根ではなく、今そこで生えてきたばかりの、白く透けた根だった。土も水もないコンクリートの穴から、一本、また一本と伸び、空気に触れるとすぐ灰色に縮んだ。

撤去はそこで中止になった。

いったん戻そうとしたが、ブロックはもう元の形に積めなかった。さっきまで合っていた欠け目が、どれも少しずつずれている。無理に重ねると、間に細い隙間が残った。指一本ほどの暗さだった。

その隙間から、土の匂いがした。

湿った土ではない。長いあいだ布団の下に敷かれていた畳を、初めて持ち上げたときのような、押し潰された匂いだった。誰かがライトを向けたが、光は奥へ入らなかった。隙間の中で、光だけが横に折れたように消えた。

翌朝、ブロックはきれいに積み直されていた。

誰がやったのかは分からない。夜に林へ入った者はいなかった。ただ、前日にはなかった苔の帯が、ブロックの目地に沿って一本増えていた。緑というより黒に近く、乾いているのに指で押すと、奥から水がにじんだ。

その水は冷たくなかった。

手のひらに乗せると、体温より少し高い。血のような色もない。ただ、いつまでも蒸発せず、皮膚の上で薄い膜になった。洗っても落ちない。やがてその膜は白く乾き、細かな粉になって、爪の間に残った。

数日後、林に面した家で、床下から音がするようになった。

ずる、ずる、と重いものを引きずる音だった。ネズミでも猫でもない。音は必ず日没のあと、ブロックのある方角から始まり、家の基礎の下で止まる。翌朝になると、コンクリートの犬走りに小さな穴が増えていた。虫食いのような穴ではなく、あのブロックの気泡と同じ、丸く荒い穴だった。

穴は日に日に増えた。

埋めても、次の朝には別の場所に開く。セメントで塞いだ家では、壁の内側から白い粉が落ちた。掃除機で吸うと、紙パックの中で固まり、取り出したときには小さなブロックの形になっていた。

その林の重しは、今もそのまま積まれている。

崩れそうで、崩れない。苔は目地を縫うように濃くなり、隙間は見えなくなった。それでも夕方になると、ブロックの穴だけが先に暗くなる。近づいて耳を寄せると、何かが聞こえるという人もいる。

声ではない。

下から、重さを量り直している音だという。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

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