境界

写真怪談

錠前の内側

山奥の高速道路とバイパスに挟まれた、施錠済みの小さな物置小屋。道路整備員がそこで見た南京錠は、開ける側だけを“内側”へ向けていた。
写真怪談

水面の継ぎ目

昼の高架下、水面にだけ実在しない階層が映る――その継ぎ目を見てしまった者に残る、黒い指の痕跡。
写真怪談

赤い支柱の借家

夕方の路地に立つ小さな巣箱は、鳥ではなく、部屋から抜け落ちた“居た感じ”を少しずつ借りていた。
写真怪談

砂の列、停車しないもの

バス停の脇にできた小さなアリの巣。出入りしているのは、たった三匹だけ――それなのに、待つ人が多い日ほど、砂の筋は少しずつ太くなっていった。
写真怪談

石の向き

晴れた昼だけ妙に静かなあの細道で、足元の小石は、誰のために向きをそろえていたのでしょうか。
写真怪談

登り痕

塀の上に揃えて置かれた黒い革靴。誰が捨てても翌朝には戻り、今度は「上」に向かう足跡だけが少しずつ増えていきます。
写真怪談

肘痕

夕方の高い通路で、手すりに残っていたのは一人分の体温ではありませんでした。
写真怪談

節鳴り

立ち入りが許されたのは一日だけ。外から見続けていた蔦の木に近づいた人だけが、整備の手が止まった本当の理由を知ります。
写真怪談

還り結び

整備されたはずの緑地で、通り過ぎたあとにだけ境界が結び直されていく――開放日の細道に残った、桃色の痕跡。
ウラシリ怪談

ひとり分の湯

閉店を告げた北の銭湯では、最後の客が帰ったあとも、毎晩きっちり“一人分”だけ湯が減っていたそうです。
写真怪談

口火

最後のひとりが喫煙所を出たあとも、一本ぶんだけ煙が帰ってこない夜がある。
写真怪談

拾球当番

夕暮れの住宅街で、投光器が点く前にだけ家の中から鈍い音がする。翌朝なくなっているのは、なぜか決まって“丸いもの”だった。
写真怪談

緑灯の訪問者

深夜零時、共用廊下の緑灯が一瞬だけ薄くなる――その翌朝、老夫婦の玄関には見知らぬ「来訪札」が貼られていた。
写真怪談

網目の零番

夕暮れのテニスコート脇、ゴルフ練習場の防球ネットを見上げた一枚に“欠けた網目”が残った――その空白は、拡大するたび位置を変える。
写真怪談

欠席格子

日曜の朝、誰もいない校門で、ネットの一マスだけが“塞がって”いました。
写真怪談

目地が増える

舗道の円い蓋のまわりだけ、苔が“縫い付けられた”ように増えていく──その写真が、いつの間にか更新されていた。
写真怪談

まわり道→

工事で塞がれたいつもの裏道――「まわり道→」に従った先で、見慣れた街の“綻び”に気づいてしまう。
ウラシリ怪談

玄関がまだ外だった

「裏から見ても同じに読める」札を玄関に掛けた家で、境目そのものが迷いはじめた――そんな噂です。