説明のつかない痕跡

ウラシリ怪談

おはなしのへやに残った返事

空調故障で閉じていた図書館。「おはなしのへや」が再開するまでのあいだ、誰もいないはずの部屋から、子どもたちの“返事”だけが少しずつ増えていったそうです。
ウラシリ怪談

二度目の揺れは、家に帰る

地震波のデータをめぐる報道を見た夜、亡き父の食卓で、水面に十一の波が広がりました。消えたはずの波のうち、二本だけが――こちらへ戻ってきたそうです。
ウラシリ怪談

社員証が帰りたがる夜

AI開発の速度を落とすため、外部から来た評価員たち。ところが夜になると、彼らに渡された入館証だけが、決まって「出口」の方を向くようになったそうです。
写真怪談

神輿の後ろの一人分

人で埋まった祭りの通りで、神輿の後ろにだけ、誰も入ろうとしない「一人分」があった。警察官の肩に残ったのは、触れてもいない縄の重さだった。
ウラシリ怪談

灰の年齢欄

届いた健康調査の封筒には、ひとり分だけ、まだ生まれていないはずの回答欄が混ざっていました。
写真怪談

青い養生の奥の部屋

空き家の脇を覆う青い養生の前では、ときどき、そこにあるはずのない「誰かの暮らし」の匂いがする。
ウラシリ怪談

午前零時半、閉じた道から

午前零時半、誰も通れないはずのアンダーパスから一本の電話がかかってきました――「もう、閉まりましたか」
ウラシリ怪談

別れを言わない訪問者

亡くなった時刻に、遠く離れた家族の前へ現れる――百年以上前、研究者たちはその「偶然」を17,000人に尋ねました。では、最後に残されたものまで説明できるのでしょうか。
ウラシリ怪談

八月二十四日の薄膜

電気を通すはずのないものに、初めて電気を通した人が亡くなった夜。古い研究室では、何にもつながっていない一枚の薄膜が、静かに光っていたそうです。
写真怪談

乗る前の白い息

空港行きのバスを待つだけの夕方、乗り場の係員は、気温では説明できない「白さ」に気づいた。
写真怪談

逆回りのペダル

誰もいない二階の駐輪場で、精算を終えるたび、停められた自転車のペダルが一台ずつ後ろへ回る。車輪は、どれも動いていない。
ウラシリ怪談

二億回の向こう側の椅子

九十四歳の祖母と孫が、十年かけて残してきた何気ない日常。二億回を超えて見られたその映像の片隅で、“まだ会っていない誰か”の椅子だけが、少しずつ近づいていました。
写真怪談

流してから出てください

男子トイレの個室に座ると、真正面に「終わったら流して下さい。」という貼り紙がある。何の変哲もない注意書きだった。裏側に、別の文字が見つかるまでは。
写真怪談

欄干に分かれる人

駅前の歩道橋には、手すり越しにしか見えないものがある――しかも、見るたびに少しずつこちら側へ近づいてくる。
晩酌怪談

鹿肉の勘定

仕事帰りに入った居酒屋で、鹿肉のソーセージをつまみながら瓶ビールを飲んでいた。皿の上には四本あった。それだけは、よく覚えている。
写真怪談

内側に上がる花火

夜空の花火を見上げていた出店の女性。そのころ白いテントでは、誰も見ていない「内側」に、もう一つの花火が上がり始めていた。
写真怪談

水面より上の泥

池の水は増えていない。それなのに、清掃を始めた作業員たちの周囲では、「水際」だけが少しずつ高くなっていきました。
写真怪談

二重ガラスの人影

お盆明けの空港。駐車場から見上げたガラス張りの連絡通路には、歩いている人数とどうしても合わない人影がひとつありました。