構造の異常

写真怪談

橋の中の氷

川沿いの低い橋で、日なたの白い柱だけが濡れていた。冷凍配送トラックが通り過ぎたあとも、その冷たさは消えなかった。
写真怪談

頭上を走る車道

人の頭上を映すエスカレーターの鏡面に、そこには存在しない一本の車道が通り始めた。
写真怪談

吸気口の向こう

停止しているはずの設備が、毎日同じように空気を吸っていた。その配管を切り離したとき、ようやく分かった。吸い込まれていたものは、空気だけではなかったらしい。
写真怪談

更地の階段

建物を壊せば、そこにあったものも消える。けれど雨に濡れた更地で、作業員の足だけが地面へ届かなかった。
写真怪談

根のない草

建物の裏で伸びていた、どこにでもありそうな一本の草。引けば離れた管の草まで動き、切れば翌朝には元へ戻る。やがて作業員たちは、それが「管の中」を通っているのではないと知る。
写真怪談

四度目の赤い印

外壁作業中、一本のロープにだけ、長さでは説明できない異変が起きた。地上から見れば、二人はただ並んで吊られているだけだった。
写真怪談

家ではない側

廃屋だと思っていた建物を反対側から見たとき、そこには玄関も窓も、人の暮らしもあった――だが、その家には「人が物に見える側」が存在していた。
写真怪談

植木のほうが下

水平なはずの住宅街で、家の中の「下」だけが、窓の外に立つ一株の植木へ向き始める。
写真怪談

鉢が食べる隙間

ハエトリグサが閉じるたび、部屋から「隙間」が一つずつ消えていく。冷蔵庫の裏、棚の下、そして指と指のあいだ――最後まで残る余白は、どこだろう。
写真怪談

門の歯列

夜の中庭にある古い煉瓦門には、閉館後だけ守られる奇妙な通行規則があった。それを破った男の身体で、門の補修が始まる。
写真怪談

屋上の串

駅前の古い雑居ビルで、何を飲んでも血の味がする一席。その真上をたどった屋上には、図面にない一本の竿が突き刺さっていた。
写真怪談

空荷の鉤

青空の下、空荷のフックは動いていない。それなのに、人の体だけが吊り上げられていく――クレーン現場に残された螺旋の痕の話です。
写真怪談

シャッターの隙間

半分だけ下りたシャッターの奥で、荷物は“積まれている”のではなく、少しずつ高さを預けていた。
ウラシリ怪談

1995の空席

金利を決めるはずの会議室で、誰のものでもない椅子だけが、先に着席を待っていたそうです。
写真怪談

桁裏の車列

高架の裏を、車体のないライトだけが走っていく。通り過ぎたあと、歩道ではなく金網にタイヤの跡が残っていた。
写真怪談

鋲の雨宿り

大雨の交差点、緑の柱に並ぶ鋲だけが、通り過ぎた人の重さを覚えていました。
写真怪談

白い柵の空白

白い非常階段を見上げたとき、そこにいたのは人影ではなく、人が抜き取られたような“空白”だった。
写真怪談

吹き抜けの内側

閉館後の吹き抜けで、一灯だけ遅れて点く理由を知ってしまった人は、もう真下を歩けなくなります。