桁裏の車列

写真怪談

高架の腹を、車のライトが一台ぶんだけ降りて走っていた。

左の車道では、本物の車が白く連なっている。右には黒い水路があり、柵の向こうでビルの灯りが細く揺れている。頭上の都市高速は、下から見ると道路ではなく、巨大な鉄の天井だった。そこを、二つのライトだけが、車体を失くしたまま滑っていく。

会社員の男性は、初めは車道の反射だと思った。けれど車道の流れは左から右へ向かっているのに、桁裏のライトは右から左へ戻っていた。赤信号で下の車が止まっても、上の二つだけは止まらない。

ライトが真上を通ったあと、膝のあたりに熱い匂いが残った。

排気ガスではなく、夏の道路に焼きついたタイヤの匂いだった。水路側の金網が、音もなく内側へたわみ、すぐ戻った。誰かが見えない車で、柵のすぐ横をすり抜けたみたいに。

前を歩く二人連れは気づかずに話している。オレンジ色の服の人と、黄色い上着の人が、歩道の端を並んで進む。二つのライトがその背後へ近づくと、二人のあいだの空気だけが細く開いた。肩が触れそうな距離なのに、そこにもう一台ぶんの幅ができる。見えないものが通るたび、人の体がほんの少しだけ左右へ分けられていく。

男性は金網に手を置いた。

指先に黒い粉がついた。湿っていない。錆でもない。粒が細かく、こすると指紋の溝に入り込んだ。匂いはやはりタイヤだった。金網の菱形の角にだけ、その粉が二本の帯になって続いている。地面ではなく、腰より低い金網の側面に、車輪の跡が走っていた。

次の桁の下で、ライトが増えた。

二つだったものが四つになり、六つになった。車道の車はまだ少ない。けれど高架の裏では、渋滞のように光が詰まっている。どのライトも車体を持たず、白い楕円だけで滑ってくる。近づくたびに、歩道の人たちの影が片側へ寄せられ、金網の黒い粉が少しずつ濃くなった。

男性は歩道の中央へ出た。

そこなら何にも触れないはずだった。ところが、足元のタイルに細い熱が走った。見下ろすと、靴のつま先の前で空気が歪んでいる。アスファルトの上に浮く逃げ水のような揺れが、歩道を横切っていた。

ライトが来た。

白い光は頭上を通らなかった。高架の腹から、ゆっくり歩道の高さまで降りてきた。膝の横を、何か硬い幅が過ぎていく。ぶつからない。けれど、服の裾だけが外側へ引かれた。通り抜けたあと、ズボンの右膝に、黒い擦れ跡が一本ついていた。

帰宅してから洗っても落ちなかった。

布の表面ではなく、繊維の奥に道路の粉が入っている。翌朝には、その擦れ跡が二本になっていた。ちょうど車のタイヤの間隔で、膝から裾へ向かって薄く伸びている。

男性はその道を避けるようになった。

それでも、夜中に部屋の廊下を歩くと、右の壁だけがかすかに熱い。壁紙の下から、黒い粉が少しずつ浮く。掃除しても、翌朝にはまた二本の帯になっている。玄関から台所へ、台所から寝室の前へ、低い位置をまっすぐに。

昨日、掃除機のコードをその帯の上に置いたまま眠った。

朝になると、コードの同じ場所だけ平たく潰れていた。タイヤに踏まれたように、ゴムの表面が白く伸びている。

彼の部屋は七階にある。

窓の外に道路はない。

それでも深夜二時を過ぎると、廊下の壁を、白いライトが二つずつ通っていく。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

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