1995の空席

ウラシリ怪談

その建物では、会議の前になると、使われる椅子の数を必ず二度確認していたそうです。

その月半ばに予定された二日間の会合のため、準備係の職員は、いつものように長机の周囲へ椅子を並べていました。短期金利を 0.75% から 1% へ動かすかもしれない、という話が外では先に広がっていました。市場ではおよそ八割がそれを織り込んでいる、と報じられていたそうです。

けれど、その会議室だけは、何をどう数えても一脚多かったといいます。

出席者の名札は揃っていました。予備席も、記者用の椅子も、控室の折りたたみ椅子も、すべて台帳どおりでした。それなのに、中央から少し外れた場所に、誰の名も置かれていない椅子が一脚ありました。

背もたれには、薄く白い粉のようなものがついていたそうです。

準備係は最初、古い壁の漆喰だと思ったそうです。拭き取ると、粉は布に移らず、数字だけが残りました。

1995

その数字は、翌朝には椅子の脚へ移っていました。昼には会議室の床に、夜には建物の外の石段に、同じ四桁が湿った跡のように浮いていたといいます。雨は降っていませんでした。

会議資料の束にも、奇妙なものが混じりました。印刷部数は正しいはずなのに、最後の一部だけ、表紙の利率欄が空白でした。本文のどこにも誤りはありません。ただ、議事次第の最後に、通常なら存在しない一行があったそうです。

「着席を確認すること」

誰が着席するのかは、書かれていませんでした。

その夜、準備係の一人が、消灯後の会議室を確認しました。鍵は閉められていました。窓の外では旗がほとんど動かず、街の音も遠かったそうです。

中を覗くと、例の椅子だけが机のほうを向いていませんでした。

入口を向いていたそうです。

翌朝、その椅子はなくなっていました。台帳の数も合っていました。資料の余分な一部も見つかりませんでした。ただ、会議室の全席に、誰も座っていないうちから、椅子の座面だけが少し温かかったといいます。

それ以来、その建物では会議の前に椅子を二度確認するのをやめたそうです。

数えるたびに、一脚ずつ近づいてくるものがあるのかもしれません……そんな話を聞きました。

この怪談は、以下の記事をきっかけに生成されたフィクションです。

Bank of Japan expected to raise rates this month, sources say

reuters.com

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