滑り台の続き

写真怪談

住宅地の一角に、緩やかな丘の斜面を利用した小さな公園がある。大きな木々に囲まれ、丘の上には白い集合住宅が建っている。園内には木製のアスレチック遊具やベンチがあり、斜面を蛇行するように、黄色いローラー式の滑り台が設置されていた。

滑り台はそれほど急ではない。小さな子どもでも安心して遊べるように造られており、滑ると細いローラーが次々に回転して、独特の軽い音を立てる。カラカラカラ、と乾いた音が上から下へ流れていくのだ。休日には、その音に子どもたちの歓声が重なっていた。

ところが、この公園では、誰もいない時間にも滑り台の音が聞こえることがあった。

平日の午後、園内を清掃していた管理作業員が、斜面の下で落ち葉を集めていると、背後からローラーの回転する音が聞こえた。振り返ると、黄色い滑り台が緩やかに曲がりながら丘の上へ続いている。しかし、そこには誰もいなかった。

音は滑り台の上端付近から始まり、ゆっくりと下へ移動してきた。途中の曲がり角では少し弱まり、直線部分でまた速くなる。普段、子どもが滑り降りるときと、まったく同じだった。

やがて音は最下部まで達し、ふっと止まった。

作業員はしばらく滑り台を眺めていたが、風でローラーが回ったのだろうと考えた。確かめるために手近なローラーを指で回してみると、軽い音を立てて回転した。特に異常はない。その日は気にせず清掃を終えた。

同じことが何日も続いた。

不思議なのは、音がする時間帯だった。午前中や休日の賑やかな時間には聞こえない。決まって、子どもたちが帰り、公園が静かになった頃に始まる。滑り台の上から下まで、一度だけ誰かが滑り降りるような音がする。それから数分後、また同じ音が聞こえる。

近所の住人にも、その音を知っている人がいた。集合住宅の窓を開けていると、夕方になる頃、誰かが遊んでいるような音が聞こえてくるという。子どもの姿が見えることはない。それでも、滑り終わったあとには何となく、もう一度滑るために丘を上っていく気配まで感じるのだそうだ。

秋の終わり、作業員は公園の設備点検を兼ねて、音の正体を確かめることにした。

午後四時を過ぎると、周囲の住宅に灯りがつき始めた。園内には人影がなく、木々の葉が揺れる音だけが聞こえていた。作業員は滑り台の下端から少し離れた場所に立ち、黄色いローラーの並びを見上げた。

しばらくすると、音が始まった。

カラカラカラカラ。

上の方から、細いローラーが順番に回っていく音が近づいてくる。曲がり角を過ぎ、最後の直線へ差しかかった。ところが、いくら目を凝らしても、ローラーは一本も動いていなかった。

作業員は滑り台へ近づき、銀色の側板に手を当てた。微かな振動が伝わってくる。音はすぐ目の前まで来ていた。それなのに、黄色いローラーの表面は静止したままだった。

音が最下部で止まった直後、別の音がした。

こつ、こつ、こつ。

滑り台の右側に設けられた、木製の階段の方から聞こえてきた。誰かが下から一段ずつ上っていくような、規則正しい音である。だが、その階段にも人の姿はない。

作業員は階段の下へ回った。丸太を横に並べたような段が斜面に沿って続き、上部は滑り台の入口付近へつながっている。子どもたちが何度も滑るために使う、ごく普通の上り道だった。

そこで、足元に妙なものを見つけた。

一段目の木材の表面に、浅い半円形の窪みがいくつも並んでいた。靴底で踏みつけられた跡とは違う。滑らかな曲面が均等な間隔で繰り返されている。指で触れると、窪みの内側だけが異様に滑らかだった。

滑り台のローラーと、ほとんど同じ形だった。

翌日、作業員は同僚とともに階段を調べた。窪みは一段目だけでなく、三段目まで続いていた。木材の腐食や摩耗を疑ったが、表面には割れもささくれもない。何か円筒状のものを長時間押し当て、木の繊維そのものを押し潰したような状態だった。

同僚は、階段を使った子どものいたずらではないかと言った。しかし、それなら道具を使った跡があるはずだ。窪みは木材の表面を削ってできたものではない。丸くへこんだ部分でも、木目が途切れずに続いていた。

二人は問題の段を写真に残し、経過を見ることにした。

それから数日、音は夕方になるたびに聞こえた。

上から下へ、ローラーが回転する音。最下部で一度止まり、続いて木製階段を上っていく乾いた音。初めのうちは、滑り終わってから階段の音が始まるまでに少し間があった。ところが日を追うごとに、その間隔が短くなっていった。

階段に残る窪みも、少しずつ上へ増えていた。

ある日の点検で、作業員は奇妙なことに気づいた。木材に刻まれた半円形の窪みは、上へ行くほど浅くなっていたが、その間隔は滑り台のローラーと正確に一致していた。まるで黄色いローラーの並びが、階段の木材へ少しずつ写し取られているようだった。

その日、作業員は一人で夕方まで残り、階段の下に立っていた。

例の音が始まったのは、午後四時半を少し過ぎた頃だった。滑り台の上から、いつもの軽い回転音が聞こえてくる。誰もいない。ローラーも動いていない。それでも音だけが緩やかな曲線に沿って下りてきた。

音が滑り台の出口へ達したとき、作業員は足元の土が僅かに沈むのを見た。

乾いた地面に、小さな窪みができた。靴で踏んだ跡ではない。幅の狭い、横長の窪みだった。それが一つ、また一つと、階段の方へ続いていく。

作業員は思わず後ずさった。

窪みは何もない地面を横切り、階段の一段目へ届いた。すると、木製の踏み板が内側から押し上げられたように、ゆっくり盛り上がった。

みし、と低い音がした。

木材の表面には、先ほどまでなかった新しい半円形の窪みができていた。さらに二段目、三段目と、同じような変形が続いていく。踏み板の上を何かが通っているのではなかった。木材の内側を、円筒状のものが順番に押し上げているように見えた。

作業員は階段の脇へ飛び退いた。音はそのまま上へ進み、やがて滑り台の入口付近で止まった。

その直後だった。

カラカラカラカラ。

また滑り台の上から音が聞こえてきた。

作業員はその場を離れた。背後では、誰かが滑り降りる音と、階段を上っていく音が交互に繰り返されていた。

翌朝、管理会社の担当者が公園へ来た。階段を確認すると、半円形の窪みは上端近くまで増えていた。さらに、滑り台の出口と階段の間にある地面にも、同じ間隔の細い溝が連続して残されていた。

足跡は一つもなかった。

安全上の問題があるとして、公園の一部が立入禁止になった。滑り台の入口と出口にはロープが張られ、木製階段の傷んだ段は交換された。撤去した木材を調べた業者は、奇妙な報告を残している。

木材を切断すると、窪みの下にある年輪まで、同じ半円形に曲がっていたという。普通、表面に力を加えれば木材は潰れるか割れる。ところが、その段は内部の繊維を保ったまま、滑らかな円筒に沿うように変形していた。

さらに不可解だったのは、新しく取り付けた踏み板だった。

交換から三日後、同じ場所に浅い窪みが現れた。それだけではない。階段下の地面に刻まれた細い溝は、以前より深くなっていた。雨が降っても埋まることはなく、むしろ硬く締まった土の中へ、少しずつ沈み込んでいるようだった。

管理会社は滑り台そのものの撤去も検討した。しかし、遊具の強度検査では異常が見つからず、利用中の事故も報告されていない。しばらくして立入禁止は解除され、公園には以前と同じように子どもたちが戻ってきた。

ただし、管理作業員の間には、一つだけ申し送りが残った。

夕方、誰もいない滑り台から音が聞こえたら、右側の木製階段には立たないこと。

あの一件以降、階段を上る音は、以前よりずっと滑らかになったという。こつこつと一段ずつ踏む音ではなく、細かいものが絶え間なく転がるような音へ変わっていた。

そして最近、音の聞こえ方が少し変わった。

滑り台を下りきった音が、ほとんど途切れなくなったのである。黄色いローラーの音は出口を過ぎても続き、地面を横切って木製階段へ移る。そのまま丘の上まで進み、滑り台の入口へ戻ると、再び下へ向かってくる。

まるで一本の長い滑り台が、いつの間にか輪になってしまったかのようだった。

先日、定期点検に訪れた作業員が、階段の最上段で新しい異変を確認した。

木製の踏み板と、滑り台の入口を支える金属製の側板。その間には、もともと数十センチほどの隙間があった。ところが、踏み板の端から細い半円形の溝が伸び、そのまま金属の縁へ達していた。

溝の内側には、細かな黄色い粉が付着していた。

作業員は布で拭き取ったが、翌朝にはまた同じ粉が溜まっていた。滑り台のローラーに摩耗した箇所はなく、交換したばかりの木材にも傷は見つからなかった。

公園は今も、住宅地の丘の斜面にある。

昼間は子どもたちが遊び、黄色いローラーの音が響いている。木製の階段を上れば滑り台の入口へ戻れるし、下にはベンチもある。緩やかな傾斜の、どこにでもありそうな公園だ。

けれど、誰もいなくなると、ときどき音がする。

カラカラカラカラ。

滑り降りて、地面を渡り、階段を上って、また滑り降りる。

もう途中で止まることはない。

その音が何周したのか、数えられた人はいないという。

ただ、一度だけ、夜間の見回りに来た管理人が奇妙な光景を見ている。

誰もいない滑り台の最下部で、黄色いローラーが一本だけ、ゆっくりと回っていた。

回転はすぐに止まった。

しかし、その時すでに、階段を上る音は滑り台の入口まで達していた。

そして、次の滑走音は、まだ始まっていなかった。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

この怪談の怖さを評価する

星を押して、怖さを5段階で評価してください。

平均評価 0 / 5. 読者の怖さ評価 0

まだ評価はありません。最初の評価をお願いします。

 

タイトルとURLをコピーしました