静かな異変

ウラシリ怪談

隣を走る、もうひとり

体育の日、無料開放された体育館で、走るのが苦手な少年の隣から、もうひとり分の足音が聞こえ始めました。誰もいないはずの場所で、その足音は少年と一緒に、少しずつ速くなっていったそうです……。
ウラシリ怪談

公開情報だけが、あたたかかった

止められたAIの研究室で、誰も印刷していない「公開情報だけの紙」が一枚ずつ増えていった――そこには、ネットには載っていないはずの“温度”が残っていました。
ウラシリ怪談

おはなしのへやに残った返事

空調故障で閉じていた図書館。「おはなしのへや」が再開するまでのあいだ、誰もいないはずの部屋から、子どもたちの“返事”だけが少しずつ増えていったそうです。
ウラシリ怪談

社員証が帰りたがる夜

AI開発の速度を落とすため、外部から来た評価員たち。ところが夜になると、彼らに渡された入館証だけが、決まって「出口」の方を向くようになったそうです。
ウラシリ怪談

八時六分の縫い目

八月十六日、山の火を見送った父娘。亡き妻が残した「まだ途中」の一針は、その夜、静かにほどけ始めたそうです。
ウラシリ怪談

海面に戻る人

海の温度を測っていたサメは、毎夕ほんの数秒だけ、「温度のない海面」へ戻ってきたそうです。
晩酌怪談

手前だけぼやける

休日の昼、バイスハイボールの向こうで手前の焼きそばだけがどうしても焦点を結ばず、その何気ない「ぶれ」は店を出たあとも消えてくれなかった。
写真怪談

二秒先の寝返り

電車の揺れより二秒早く身体を傾ける、顔を伏せた女。その寝姿を見続けた乗客の日常に、奇妙な「遅れ」が入り込み始める。
写真怪談

手すりの糸くず

昼休みの公園に掛けられた一枚のタオルは、落とし物ではなく、少しずつほどけて何かを呼び戻していた。
ウラシリ怪談

千五百二十一番目の小間

存在しないはずの小間番号だけが、来場証の裏に薄く浮かんでいたそうです。
写真怪談

木像の息継ぎ

窓を塞がれた古美術商の小さなショーケースは、深夜になると町の音を一息ずつ吸いはじめる。
ウラシリ怪談

遊んだあとの返送票

祭りの景品を扱う問屋に、使い終わったはずの水鉄砲の的が、返送票つきで戻ってくるようになったそうです。
ウラシリ怪談

受け身のいない床

追加キャラクターの動きが完成した夜から、誰もいない床が受け身を取りはじめたそうです。
ウラシリ怪談

十三インチの隙間

閉じたはずの新しいノートの隙間に、もうひとつ細長い“部屋”が残っていたそうです。
晩酌怪談

残機

深夜の晩酌と古いシューティングゲーム。その残機表示が、いつからかグラスの氷と同じ数で動くようになった。
写真怪談

青札

駅前の駐輪場に、ときどき「日付のない青札」が下がる。その札に触れた自転車は、夜のうちに一度だけ誰かを送りに出るらしい。
写真怪談

無音の止まり木

解体現場の横で群れるスズメは、鳴き声ではなく“無音”を守っているように見えた。
ウラシリ怪談

七日間の間口

駅のロッカーで“予約していない一冊”が七日間だけ混ざり続け、最後に白い封筒が残ったそうです。