その団地では、秋になると敷地内の植え込みや中央分離帯をまとめて清掃する。刈った草や落ち葉は透明な袋へ詰め、車道の中央にある細長い緑地へ集めて、回収車が来るまで置いておく決まりだった。
その年は落ち葉が多かった。午前中だけで袋は十数個になり、中央分離帯の一角に、人の胸ほどの高さまで積み上がった。袋の中には乾いた葉だけでなく、刈草や細い枝も混じっていた。日差しを受けた透明な袋は白く光り、中身の茶色だけが妙にくっきり透けて見えたという。
午後、回収車が来た。作業員が袋を一つずつ荷台へ積み込み、最後に中央分離帯を箒で掃いた。舗装の縁に残った細かな葉まで集めたので、作業が終わった場所には、ほとんど何も残らなかった。
その日の夕方だった。
団地へ入る通路の脇から、何かを引きずるような音がし始めた。
ざら、ざら、ざら、と、乾いたものが大量に擦れ合う音だった。風で葉が転がる音に似ていたが、音は途切れず、しかも地面の下から聞こえていた。通りかかった住人が側溝を覗いたとき、格子の隙間から茶色いものが盛り上がっているのが見えた。
側溝の中が、落ち葉で埋まっていた。
数枚どころではなかった。幅の狭い側溝が十メートル以上にわたって隙間なく塞がれ、格子の裏まで葉が押しつけられていた。上から入り込んだというより、下から詰め込まれたように密集していたという。
管理人と清掃員が格子を外し、落ち葉を掻き出した。大きなごみ袋が六ついっぱいになった。朝に集めたものと同じように、枯れ葉の間には短い刈草と細い枝が混じっていた。
妙なのは、側溝の底が濡れていたことだった。
前日に降った雨水がまだ少し残り、コンクリートには湿り気があった。それなのに、詰まっていた落ち葉は表面も内側も乾いていた。袋へ入れると、ぱりぱりと音を立てるほどだった。
六袋はそのまま管理用のごみ置き場へ運ばれた。
翌朝、側溝は空だった。
代わりに、一棟の一階と二階の間にある踊り場が、落ち葉で埋まっていた。
階段を数段上がったところから、茶色い葉の斜面が始まっていた。踊り場の床は見えず、手すりの下まで葉が積もっている。中央に立てば、成人の膝近くまで沈むほどの量だったという。
窓は閉まっていた。踊り場へ続く防火扉も夜間に開閉した形跡はなかった。誰かが袋を運び込んで撒いたとしても、何往復もしなければ作れない量だった。
それ以上に、住人たちが気味悪がったことがある。
一階にも、二階にも、落ち葉は一枚も落ちていなかった。
外から運び込んだなら、玄関や廊下や階段に必ず途中の葉が残るはずだった。ところが踊り場だけが、そこへ直接ひと山を落としたように埋まっていた。
管理人たちは午前中いっぱいかけて葉を袋へ詰めた。八袋になった。前日の側溝から出たものより多かった。
清掃を終えた直後、三階の住人が階段から妙な音がすると言いに来た。
ざら、ざら、ざら。
上からでも、下からでもなかった。
壁の中を、大量の乾いた葉がゆっくり擦れながら通っているような音だったという。
数人で階段を調べたが、何も見つからなかった。音も十分ほどで止まった。
その夜、二階と三階の間の踊り場が埋まった。
今度は前日よりひどかった。踊り場だけでは収まらず、上下の階段へ落ち葉が溢れていた。手すりの隙間からも葉がこぼれ、壁際では腰の高さ近くまで積もっていた。
しかも、下の踊り場はきれいなままだった。
葉の山だけが、一階分上へ移っていた。
その日のうちに撤去した。十一袋になった。
翌朝は四階だった。
次は五階だった。
ただし、少しずつ増えているという程度ではなかった。踊り場全体が見えなくなる量の葉が毎回現れ、階段へ雪崩れるように積もっていた。掃除するたび袋の数は増え、最後には一度の撤去で十五袋以上になった。
子供の悪戯では済まなくなっていた。
夜間にこれだけの量を運び込めば、誰かが気づく。玄関を通れば葉を落とす。階段を上がれば足跡も残る。それ以前に、団地の周囲から同じ量の落ち葉が消えている場所が見つからなかった。
それでも毎朝、ひとつ上の踊り場だけが埋まった。
葉が現れる前には、必ずあの音がした。
ざら、ざら、ざら。
壁の向こうを、何か大きな塊が擦り上がっていく。
住人の中には、音がすると階段から離れるようになった人もいた。壁に耳を当てたことのある住人は、「葉っぱの音だけじゃない」と言ったという。何か重いものが大量の葉を押し分けながら進んでいるような、低い圧迫音が混じっていたらしい。
最上階へ続く踊り場に現れた朝、階段は完全に塞がっていた。
落ち葉は踊り場から上の通路まで溢れ、最上階の廊下へ茶色い波のように広がっていた。量はそれまでとは比較にならなかった。玄関扉の下半分が埋まり、廊下の手すりから外へ何枚もの葉が舞い落ちていた。
管理側は人を増やして撤去した。
二十袋を越えたところで数えるのをやめたという。
奥を掻き出していた作業員が、妙なものを見つけた。落ち葉の山の中心部に、透明なビニールの切れ端が何枚も混じっていた。
薄く伸びた透明な膜で、ところどころ白く曇っている。
朝、中央分離帯に積んでいた袋とよく似ていた。
その日の午後、回収を担当した業者へ確認した。前日に積み込んだ落ち葉は、ほかの剪定ごみと一緒にすでに処理施設へ搬入されているという。途中で荷を降ろしたことも、団地へ戻ったこともなかった。
最上階の落ち葉をすべて片づけたあと、異変は止まった。
数日経っても、壁の中から音はしなかった。側溝にも踊り場にも葉は現れず、住人たちも次第にその話をしなくなった。
ただ、最上階の清掃には一つだけ続きがある。
廊下の突き当たりには、屋上へ通じる鉄製の扉がある。普段は施錠され、住人が開けることはできない。
落ち葉を撤去した翌朝、その扉が開かなくなった。
鍵は回る。錠も外れる。
それでも扉は、向こう側から何かに押さえつけられているように、数センチしか動かなかった。
業者を呼び、三人がかりで押し開けた。
扉の向こうにあったのは、屋上ではなかった。
少なくとも、足元は見えなかった。
乾いた落ち葉が、扉の高さ近くまで積み上がっていた。
風で吹き寄せられた量ではない。屋上の出入口を塞ぐように、何立方メートルもの葉が壁になっていた。扉を開いた瞬間、その一部が崩れ、廊下へ大量に流れ込んだ。
屋上には、それほど多くの木はない。
周囲を見下ろしても、葉を失った木が急に増えた様子もなかった。
何より、その落ち葉の山の奥からは、透明なビニールが何枚も出てきた。
袋の形を保っているものは一つもなかった。
どれも内側から裂かれたように細長く伸び、葉の間へ混ざっていたという。
それ以来、その団地では秋の清掃で出た落ち葉を、中央分離帯へ長時間置かないようにしている。袋がある程度溜まった時点で、小分けにして別の場所へ移すことになった。
それで何年かは何も起こらなかった。
ところが昨年の秋、清掃が始まった日の夕方、まだ回収前の袋が中央分離帯に積まれているうちに、最上階の住人から管理室へ連絡が入った。
階段の壁の中で、音がする。
管理人が建物へ向かう途中、側溝の格子から乾いた落ち葉が溢れ始めた。
誰も触れていないのに、格子の下から次々と押し上げられてきたという。
そのとき中央分離帯に積んであった袋は、まだ一つも減っていなかった。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

