笑顔を抜いた手

写真怪談

郊外にあるその観光農園では、八月になると一面のひまわり畑を一般開放していた。開花の盛りを過ぎたころには、花の中心は種で重くなり、何本も首を垂れる。青空の下でうつむいて並ぶ姿は少し寂しく見えるため、数年前から職員が一部の花に「顔」を作るようになったという。種をところどころ抜き、二つの目と、大きく曲がった口を描く。遠くから見ると、俯いたひまわりが笑っているように見えた。

評判はよかった。家族連れはその前で立ち止まり、子どもは同じ顔をして笑った。種を抜くだけなので花を傷めることもない、と農園側は考えていたらしい。

その夏、短期の作業員が数人雇われた。仕事のひとつが、見栄えのいい花を選んで笑顔を作ることだった。軍手をはめ、よく実った黒い種を指先でつまみ、目になる部分を丸く抜く。口は少し幅を広くして、弧を描くように種を取っていく。抜いた種は腰に下げた小さな容器へ入れた。地面へ落とすと鳥が寄ってくるためだった。

三つ目の顔を作っている途中、作業員は妙な感触を覚えたという。種を抜いたばかりの穴へ親指が触れたとき、花の中心から押し返された。弾力があったわけではない。指の腹に、丸いものがいくつも同時に押し当てられたような感触だった。思わず手を離したが、ひまわりは揺れもしなかった。風もなかった。

軍手を見ると、親指の部分だけ細かな窪みが残っていた。ちょうど、ひまわりの種を何粒も強く押しつけたような跡だった。作業員は汗で布が縮んだのだろうと思った。そのまま口の部分を作り終えた。

ところが夕方、容器の中身を回収用のバケツへ移そうとしたとき、おかしなことが分かった。朝から何十個もの顔を作っているのに、集まった種があまりにも少なかった。容器には穴がない。腰から外したこともない。それでも底には、一握りほどしか残っていなかった。

翌朝、前日に作った顔のいくつかが消えていた。誰かがいたずらをして種を詰め直したようにも見えたが、近くで見ると違った。目や口だった場所には、新しい種が生えていた。周囲の種と同じ大きさで、隙間なく並び、どこを抜いたのか分からなくなっていた。前日に作業した職員たちは位置を覚えていた。名札も付けていたので間違いない。

その日の午前中、もう一度同じ花に顔を作った。今度は抜いた種を透明な袋へ入れ、口を結んだ。作業員同士で数を確認し、事務所へ持ち帰ったという。

昼休み、最初の作業員が右手の違和感を訴えた。掌の中に砂でも入っているような感触がするという。軍手を外して洗っても取れない。皮膚の表面には何も付いていなかったが、指で押すと、その下に米粒ほどの硬いものがいくつも触れた。棘が刺さったのだと思い、ピンセットで皮膚を調べた。しかし傷口はなかった。

夕方には、硬い粒が増えていた。親指の付け根から掌の中央へ、点々と弧を描くように並んでいた。痛みはない。ただ強く握ると、皮膚の内側で硬いもの同士が擦れる感触がしたという。

翌日、近くの診療所で一粒だけ取り出してもらった。医師は異物だろうと考え、小さく切開した。出てきたものを受け皿へ落とした瞬間、付き添っていた農園の管理者も黙った。

黒いひまわりの種だった。

殻には土も付いていなかった。乾いてもいなかった。掌の中から出した直後なのに、畑で実った種と見分けがつかなかったという。作業員が直接種を押し込んだ可能性も調べられた。しかし皮膚に傷はなく、残っている粒の上にも正常な皮膚が続いていた。

その日の午後、別の作業員二人にも同じ症状が出た。三人に共通していたのは、顔を作る作業をしていたことだった。葉を刈った者や水やりをした者には何も起きなかった。

農園は顔を作る作業を中止した。すでに加工したひまわりも、すべて刈り取ることになった。客を入れない早朝、作業員たちは長い柄の鎌で茎を切り、笑っている花だけを黒いコンテナへ入れていった。

その作業中にも異変はあった。二重に手袋をした作業員が花を抱えると、手の位置に合わせるように、花の中心がわずかにへこんだ。押しているのはこちらなのに、その直後、掌へ同じ強さで押し返す感触が来たという。

コンテナへ放り込んだ花は、どれも下を向いていた。ところが蓋を閉める直前に中を見ると、重なった花のいくつかが上を向いていた。茎が絡んで向きが変わったのだろうと管理者は説明した。

顔だけは、すべて同じ方向を向いていた。コンテナを覗いている作業員のほうだった。

その日の作業はそこで打ち切られた。

翌朝、三人の掌にあった硬い粒は消えていた。診療所で触診しても何も見つからなかった。代わりに、小さな窪みが皮膚へ残っていた。粒が入っていた場所だけ、針の先ほどの穴が開いたようにへこんでいる。出血も炎症もない。

その窪みを線で結ぶと、三人ともほとんど同じ形になった。二つの目。その下に、大きく曲がった口。ひまわりに作っていたものと同じ笑顔だった。

農園はその年の一般公開を予定より早く終了した。刈り取った花は処分され、翌年からは種を抜いて顔を作る催しも行われなくなった。短期作業員も契約終了と同時に農園を離れた。

それで終わったと思われていた。

冬になってから、そのうち一人が元の管理者へ連絡してきた。風呂上がりに掌を見ると、笑顔を形作っていた窪みの一つから、黒いものが覗いていたという。毛抜きでつまむと、簡単に抜けた。

ひまわりの種だった。

傷は残らなかった。血も出なかった。ただ翌朝になると、隣の窪みに新しい種が一本、尖った方を外へ向けて収まっていた。抜くたびに、別の穴から出てきた。三日目には二粒。その次の日には四粒。

管理者は病院へ行くよう勧めたが、本人はすでに何度も診察を受けていた。皮膚の下には何も映らない。医師が見ている間には一本も出てこないという。

元作業員は、途中から種を抜くのをやめた。今も掌には、あの笑顔が残っているそうだ。ただ以前とは少し形が違う。目の部分は黒い種で埋まり、口の部分にも、端から少しずつ種が並び始めている。

本人が最後に管理者へ見せたときには、笑顔の半分ほどが埋まっていた。種がすべて戻ったとき、どうなるのか。管理者は聞かなかった。それ以来、その元作業員は人に掌を見せなくなったからだ。

ただ、農園の事務所には今も一枚だけ、当時使われていた軍手が透明な袋に密封して残されている。布に破れはない。それなのに掌側だけ、内側から何十粒もの細長いものを押しつけたように膨らんでいる。

袋を平らな机に置いて眺めると、その膨らみもまた、笑っているように見えるという。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

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