ある郊外の駅前で、二日間にわたる秋祭りが開かれた時の話だ。初日の夜、駅前にはまだいくつかの屋台が明かりを残していたが、客足はかなり引いていた。代わりに目立っていたのが、「可燃」と書かれた分別場所からあふれるほど積まれた、白いごみ袋の山だった。
祭りの片づけに入っていた作業員は、閉店した屋台から出る袋を回収し、その山へ順番に積んでいた。中身は紙皿、割り箸、容器、汚れた包装材。どれも持ち上げれば形が崩れ、積めば下の袋に沿って潰れる、ごく普通のごみだったという。
午後十時を少し回ったころ、山の中央にあった一枚の袋だけ、妙な形になっていた。半透明の白いビニールが内側から丸く押されていて、額から鼻筋のような凹凸が浮いている。屋台の容器がたまたまそう見えるのだと思い、作業員は目を離した。
数分後、もう一度見ると、鼻のような膨らみは消えていた。
その代わり、隣の袋に同じ形があった。
袋そのものは動いていない。間には別の袋も挟まっている。それなのに、さっきまで中央にあった丸い膨らみが、ひとつ横の袋へ移っていた。今度は鼻だけではなく、閉じた瞼のような二本の窪みまで見えたという。
別の作業員を呼んだ。二人で近づき、横から袋を確認したが、中に入っているのは潰れた紙容器と串、丸めた包装紙だけだった。人間の顔ほど大きな固形物はない。それでも正面へ戻ると、白いビニールには、誰かが薄い膜の向こうから顔を押しつけているような凹凸が残っていた。
片づけを止めるわけにはいかなかった。二人は、その袋の持ち手に黒いテープを巻いて目印を付け、山の端へ移した。あとは見ないことにして、次々に運ばれてくるごみを積み直したという。
十五分ほど経って、黒いテープの袋がなくなっていることに気づいた。
誰かが回収したのだと思った。しかし、その袋は山の中央付近にあった。白い袋を何段も積み重ねた奥に、黒いテープだけが透けて見えている。そこへ戻すには上の袋をいくつもどかさなければならないはずだった。
二人はしばらく何もせず、離れた場所から山を見ていた。駅前を通る人はまだいたし、屋台の関係者も何人か残っている。車のライトも断続的に差し込んでいた。それだけに、目の前で起きたことを暗がりの見間違いにするのは難しかったそうだ。
やがて、ごみ袋が一枚だけへこんだ。
次に、その上の袋がへこんだ。右隣、さらに上、少し左。中身が沈んだのではなく、柔らかなビニールの表面だけが、内側へ引かれるように形を変えていった。
その動きは、しゃがんでいた誰かが立ち上がる時の順番に似ていた。
腰の高さで二枚。胸の高さで一枚。頭に当たるあたりで一枚。別々の袋にできた窪みと膨らみが一つにつながり、山全体に人間の輪郭が浮かんだ。白い袋を何枚も重ね、その奥にひとりの人間を埋め込んだように見えたという。
顔の位置だけ、妙にはっきりしていた。濡れたような髪が額に貼りつき、目は閉じている。袋の表面には印刷も写真もない。それなのに、薄い白色の向こうに灰色の皮膚が見えていた。
片方の作業員が山の横へ回った。そこから見ると、人の形などどこにもない。ただ不規則に積まれた白い袋があるだけだった。正面へ戻ると、またいた。
しかも、目が開いていた。
二人とも声を出さなかった。顔は二人を見ていなかったという。視線はその脇を通り越し、駅の入口がある方向へ向いていた。やがて頭の形が一段下の袋へ移り、肩の位置も少し横へずれた。
袋の山の中を、誰かが歩き始めた。
一歩進むごとに、顔や肩を映していた袋が元へ戻り、その隣の袋が新しく歪んだ。ごみ袋そのものは崩れない。中身も落ちない。ただ、人の形だけが袋から袋へ移っていった。
山の端まで来たところで、駅前を走る車のヘッドライトが強く差し込んだ。その光が白い袋を一瞬透かした時、二人には人影の全身が見えたという。痩せた身体で、腕を下げ、少し俯いていた。服の色は分からなかった。ただ、足元まで確かに人の形をしていた。
ライトが通り過ぎると、それは消えた。
二人はそのあと、ほかの作業員を呼んで山を崩した。袋を一つずつ道路側へ並べ、中身が異常に重いものや、人が入り込める隙間がないか調べたが、何も見つからなかった。黒いテープを巻いた袋も出てきたが、中には食べ残しと紙容器しか入っていなかった。
異常があったのは、中身ではなかった。
七枚の袋で、持ち手の結び方がおかしくなっていた。普通なら袋の外にあるはずの結び目が見当たらず、半透明のビニール越しに見ると、持ち手が袋の内側へ引き込まれ、その中で固く結ばれていたのである。
誰かが袋の中へ手を入れ、内側から結んだとしか思えない形だった。
ひとつを切り開いて確認した。結び目そのものには細工も接着剤もなく、普通の固結びだった。持ち手を切った跡も、袋を開いて閉じ直した跡もなかった。結び目の近くには、指で強く引いた時にできる白い筋が五本、内側から外へ向かって残っていた。
作業員たちは七枚すべてを別にした。そのうち六枚は翌朝、中身を詰め直して処分されたという。
残った一枚だけは、ほとんど空だった。
空気しか入っていないのに、袋の口は閉じ、結び目は内側にあった。どうやって作ったのか確かめようとしても、外から手を入れられる場所がない。そのため現場の責任者が気味悪がり、処分せず、しばらく資材置き場へ移したそうだ。
祭りの二日目は、何事もなく終わった。
翌朝、片づけのため資材置き場を開けると、その袋は棚から床へ落ちていた。空気が抜け、平らになっていたが、穴は開いていなかった。内側の結び目も、そのままだった。
ただ、袋を持ち上げた作業員は、すぐ床へ戻したという。
平らなビニールの中央に、人が横から手のひらを押し当てたような跡が二つ残っていた。指の向きは下ではなく、袋の口のほうへ伸びていた。
まるで中にいたものが、最後に自分で結び目へ手を伸ばしたように。
その袋は、今も切られていないそうだ。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。


