同じ手袋が二つ

写真怪談

郊外の住宅地に、登録者だけが使える共有の畑がある。畑そのものはいくつかの区画に分かれているが、通路や水場、道具を仮置きする場所は共用になっていた。作業の途中、土のついた靴や手袋を支柱へ掛けて乾かしておく人も多く、尖った支柱の先には、目印や保護のために透明なプラスチックカップを被せている人もいた。

だから、畑の中に靴や手袋がぶら下がっていること自体は珍しくなかった。名前を書いていない物も多く、夕方になって残っていれば、翌週までそのままになっていることもあったという。

ある休日、青と黒の作業用手袋が一本、支柱に掛かっていた。畑を管理していた人が忘れ物だと思って外そうとしたところ、近くで作業していた利用者が「それ、自分のかもしれません」と寄ってきた。

ところが、その人は手袋を受け取る前に、自分の鞄を開けた。そして中から、同じ色、同じ形の右手用手袋を取り出した。

市販品なのだから同じ物があっても不思議ではない。そう思ったのだが、二つを並べると妙だった。親指の付け根にある小さな縫い直しまで同じだったのである。黒い糸を二重に通し、最後のひと針だけ斜めになっていた。

利用者は、自分で直した傷だと言った。

さらに掌側を見ると、指の根元に薄い黒ずみがあった。以前、湿った支柱を握ったときについた汚れで、何度洗っても完全には落ちなかったものだという。その黒ずみも、形までほとんど一致していた。

二人はしばらく黙って手袋を見比べた。右手用が二つ。どちらにも同じ補修跡と同じ汚れがあり、片方だけが古いとか、新しいという感じもなかった。

畑に残っていたほうは、管理用の物置へ入れた。利用者は自分の鞄から出したほうを持ち帰った。誰かの悪戯なら、しばらく保管しておけば事情が分かるだろうという程度の判断だった。

翌日、管理者は物置の手袋の内側へ、白い油性ペンで小さく「畑」と書いた。念のため利用者にも連絡し、自宅にあるほうへ別の色のペンで「家」と書いてもらった。二つが本当に別の物なら、それで区別できる。

翌朝、物置の手袋を確認すると、白い「畑」の横に、黒い文字が増えていた。

「家」

書いた覚えのない二文字だった。

利用者にも来てもらった。持ってきた右手用手袋の内側には、黒い「家」と、その横に白い文字で「畑」とあった。字体まで、管理者が前日に書いたものと同じだった。

管理者は物置の鍵を確認した。壊された形跡はなく、合鍵を持つ者も限られている。そもそも、誰かが物置へ入り込んだだけでは、自宅にあるもう一つの手袋へ同じ文字が現れた理由にはならない。

その件は、利用者同士には広めなかったという。共有の畑なので、変な噂が立てば退会する人も出る。二つの手袋は別々に保管し、しばらく様子を見ることになった。

一週間ほど何も起こらなかった。

その後、今度は茶色い作業靴で同じことが起きた。畑の支柱に片方だけ掛かっていた靴を、別の利用者が自分の物だと言った。しかし、その人の同じ靴は自宅の玄関に置いてあった。

翌日、持ってきてもらった靴と畑にあった靴を並べた。

踵の潰れ方が同じだった。靴底の外側だけが斜めに減り、細い溝の一本が途中で欠けていた。中敷きを外すと、親指の付け根にあたる部分だけ色が薄くなっている。その位置まで一致していた。

利用者は、自宅の靴をその日の朝まで履いていたという。一方、畑にあった靴には乾いた土が付いていた。しかし靴底ではなく、支柱に掛けられていた履き口の縁だけだった。

管理者は、その靴では実験をしなかった。手袋で起きたことを思い出し、二つを離して保管した。それから畑の利用者全員に、作業が終わったら靴や手袋を必ず持ち帰るよう知らせた。

支柱には何も掛けない。忘れ物を見つけても、自分の物だと思ってすぐ使わない。持ち主が分からない物は管理者へ渡す。

その決まりを始めてから、同じ靴や手袋が見つかることはなくなった。

しばらくして、畑にはほとんど私物が残らなくなった。支柱だけが並び、その一本には以前から透明なプラスチックカップが逆さに被せてあった。誰かが尖った先端を危なくないよう覆ったものだろうと思われていた。

ある朝、管理者がそのカップを外そうとした。

指を掛けたとき、妙に厚い感触がした。

よく見ると、カップは一個ではなかった。同じ透明なカップが二個、隙間なく重なっていたのである。重ねて保管した物なら珍しくないが、前日まで管理者には一個にしか見えていなかった。

二つを引き離してみると、縁に同じ傷があった。片側だけ三角形に欠け、その横に細い擦り傷が二本走っている。側面に印刷された小さなコードのかすれ方まで同じだった。

新品を重ねたものではなかった。

同じカップを、二つにしたように見えた。

管理者は両方を物置へ持っていき、別々の棚へ置いた。問題の支柱には何も被せず、その日は帰った。

翌朝、支柱には透明なカップが一個被さっていた。

物置を確認すると、前日に外した二個も、そのまま別々の棚にあった。

支柱のカップを外して比べる気にはならなかったという。

現在、その畑では、支柱へ靴や手袋を掛けたまま帰らないよう注意されている。ただし、理由を知っている人はほとんどいない。

今回の写真は、まだそうした決まりが厳しくなる前に撮られたものだという。靴も、手袋も、透明なカップも、ごく普通の共有畑の風景として写っている。

管理者が今でも気にしているのは、あの青い手袋でも、茶色い靴でもない。

透明なカップのほうだ。

靴や手袋なら、持ち主がいた。

だが、あのカップだけは、誰も自分の物だと言わなかった。

それでも同じ物が、もう一つできた。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

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