祈りの痕跡

写真怪談

奉納の重さ

弁天様の社へ続く入口で、「奉納」と刻まれた古い石灯籠の中に、濡れた硬貨が一枚ずつ増えていく。蜘蛛の巣は、一度も破れていなかった。
ウラシリ怪談

宛先のない約束

住宅街の分かれ道に立つ、赤い郵便ポストとカーブミラー。撤去が決まったそのポストには、宛名も切手もない手紙が残されていました。そして、誰もいないはずの交差点の鏡には、あるはずのない懐かしい光景が映り始めます。届かなかった約束をめぐる、静かで不思議な現代怪談。
ウラシリ怪談

青い葉だけが、乾かなかった

亡くなった奏者を偲ぶ、二日間だけの祭りの追悼ブース。誰も持ち込んでいないはずの青い葉だけが、最後まで乾かなかったそうです。
写真怪談

香炉に残る重さ

都心の廟で、黒い香炉の下だけに残る「重さ」を、誰も説明できなかった。
ウラシリ怪談

灯りは足もとに

約500の露店が連なる秋の夜、人波の中で一つだけ、火のない提灯が足もとを照らしていました。
写真怪談

水位線

寺町の奥で守られてきた、小さな湧水の池。古い管理人たちは、九月一日だけ「昼を過ぎるまで岸に触るな」と言い残していた。震災のあとに移ってきた寺と、池が毎年測り直しているものとは――。
ウラシリ怪談

八時六分の縫い目

八月十六日、山の火を見送った父娘。亡き妻が残した「まだ途中」の一針は、その夜、静かにほどけ始めたそうです。
ウラシリ怪談

四十メートルの舌

八百個の風鈴が鳴る四十メートルの参道で、最初に消えたのは音ではなく、短冊の影だったそうです。
ウラシリ怪談

昼の笹の一粒

七夕の昼、白紙の短冊に浮かんだのは、大きな願いではなく「ひとつでいいです」という小さな言葉でした。
写真怪談

卒業する短冊

七夕飾りに吊るされた願いごとは、いつから“叶ったあと”の言葉に変わっていたのか。
写真怪談

笹の手当て

七夕の笹に結ばれた願いのうち、誰かを思う短冊だけが、ほんの少し温かくなる。
写真怪談

七日目の鯉

子供の日を過ぎても神社に残された鯉のぼり――それは、少し遅れてやってくる子を待つためのものでした。
ウラシリ怪談

九条だけが折れている

5万人が去ったあとの広場で、清掃員が見つけたのは、地面の下に折りたたまれていた“第九条”でした。
写真怪談

祈影

昼の教会で見つけたのは、影ではなく“祈った跡”でした。
写真怪談

替皮

境内の片隅に置かれた、片目の欠けた石の蛙と二匹の亀。冬の最初に供えられる柚子には、寺の者が決して早く片づけない理由がありました。
ウラシリ怪談

となりの青いドラム

並べられた二つのドラムセット。そのうち片方は、もう誰も叩かないはずの新品でした。それでもあの夜、舞台の上では確かに「合図」が返ってきたそうです。
写真怪談

狐壇の通路

五色の房が揺れる夜、白い狐たちが並び替わって“通路”をつくる――その先で、誰かの小さな願いがそっと帰ってくる。
写真怪談

赤い前掛けの結び目

冬の午後四時、どんど焼きの煙が“帰り道”をつくった――赤い前掛けの結び目だけが、去年と違っていた。