七日目の鯉

写真怪談

子供の日から一週間も過ぎているのに、その神社ではまだ鯉のぼりが泳いでいた。

松の枝のあいだを、青や赤や黒の鯉がゆっくり渡っていく。風はほとんどなかったのに、紫色の大きな鯉だけが、ときどきふくらんだ。まるで誰かが下から両手で持ち上げているみたいに、腹の布がぽん、と丸くなる。

境内を掃いていた宮司さんに聞くと、「うちは七日遅れの子を待つんです」と言った。

昔、この近くの子どもが、五月五日に熱を出して神社へ来られなかったらしい。翌週、ようやく母親に手を引かれて鳥居をくぐると、もう片づけられたはずの鯉のぼりが、社務所の軒から一本だけ垂れていた。誰が出したのかわからない。けれどその子は、それを見て手をたたいて笑った。

それから、この神社では五月五日を過ぎても一週間だけ鯉のぼりを残すようになったという。

話を聞いている間、社殿の鈴が、ちりん、と鳴った。誰も拝んでいない。賽銭箱の前には、木漏れ日だけが落ちている。けれど砂利の上に、小さな足跡が二つ増えていた。濡れてもいないのに、そこだけ白く乾いている。

宮司さんは驚きもせず、箒を止めた。

「今年も来ましたね」

見ると、一番小さな青い鯉の口元に、柏の葉が一枚、ひっかかっていた。さっきまでなかったものだ。葉はまだ新しく、真ん中に小さな歯形のような丸い欠けがあった。

その日の夕方、鯉のぼりは片づけられた。布をたたむと、どの鯉もすっかり軽かったのに、紫の一匹だけがほんのりあたたかかったという。宮司さんはそれを抱えて、「来年は、五日においで」と小さく言った。

風はなかった。

それでも木の上で、見えない子どもがうなずくみたいに、松の枝が一度だけ揺れた。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

タイトルとURLをコピーしました