屋根裏を渡る葉

写真怪談

郊外のある住宅地には、寺の外周フェンス越しに家並みを見渡せる場所がある。瓦やスレートの屋根が幾重にも重なり、その向こうには公園の雑木林が大きな緑の塊になっている。さらに遠くには市街地の建物や工事中のクレーンまで見えるが、手前の住宅街だけは昔からほとんど景色が変わらないという。

その一帯で屋根の修理をしている業者に、妙な依頼が入ったのは九月のよく晴れた日だった。公園から二筋ほど離れた戸建て住宅で、昼になると天井の上を何かが擦る音がするという。鼠のような走る音ではなく、乾いた紙を何枚も重ねて、ゆっくり引きずるような音だった。

庭には背の高い木がない。屋根に枝が触れる場所もなく、雨樋にも動物の糞や巣材は見つからなかった。作業員は天井裏へ入り、断熱材や梁の上まで確認したが、そこにも何もいなかった。

ところが屋根材の一部を外したところで、手が止まった。

防水シートの下に、緑色の葉が十一枚挟まっていた。

落ち葉ではなかった。どれもまだ柔らかく、葉脈には水分が残っていた。表面には薄く土が付き、指で揉むと、公園の林の中で嗅ぐような湿った匂いがしたという。

それだけなら、施工時に入り込んだものとも考えられた。しかし、その屋根は数年前に全面改修されている。防水シートは釘と接着材で固定され、葉のあった場所へ外から入るには、屋根材を何枚も剥がさなければならなかった。

作業員は葉をすべて取り除き、屋根を元へ戻した。念のため、一枚だけ持ち帰ることにした。葉柄の近くへ白い補修用マーカーで小さな点を二つ付け、透明な袋に入れて事務所の工具箱へしまった。

その家から連絡は来なくなった。

代わりに三日後、少し寺側にある別の住宅から、よく似た相談が入った。

昼過ぎになると、屋根の中を何かが動く。音は公園のある側から始まり、ゆっくり反対側へ抜けていく。二階の部屋にいると、天井を横切っていくのが分かるという。

そこでも屋根材の下から葉が見つかった。今度は二十枚近くあった。最初の家と同じように青々としており、一枚も枯れていなかった。

さらに一週間ほどすると、もう一軒。

その次は、そこから道路一本を隔てた家だった。

屋根の構造も築年数も違っていた。瓦屋根もあれば、比較的新しいスレート屋根もあった。それなのに、音のする時刻はどの家でも正午過ぎから午後二時ごろまでで、葉は必ず屋根材のさらに内側から見つかった。

不審に思った業者が住所を住宅地図へ印してみると、妙な並び方をしていた。

最初の家は公園に近い。その次は少し寺側。次はさらに寺側。

葉の見つかった家を順番に線で結ぶと、公園の雑木林から住宅地を横切り、寺の外周フェンスへ向かって、ほぼ一本の帯になった。

その頃から、音にも変化が出たという。

以前は屋根全体を十数秒かけて横切っていたものが、家を移るごとに少しずつ速くなった。最後のほうでは、公園側の軒から音が始まったと思った数秒後には、反対側の軒先で乾いた擦過音がして止まった。

業者の一人が、次に起きそうな家で待たせてもらったことがある。

風のない午後だった。窓の外では電線もほとんど揺れていなかった。

十二時四十分ごろ、屋根の公園側で、さり、と音がした。

作業員は天井裏にいた。頭上には野地板があり、そのさらに上に防水シートと屋根材がある。音はその板の向こうから聞こえた。

さり。

少し間を空けて、また、さり。

何かが一枚ずつ重なりながら、自分の真上へ近づいてくる。

作業員は梁に手を置いたまま動かなかった。やがて音が頭上へ来たとき、板の隙間から細かな粉が落ちた。

土だった。

その直後、音は頭上を通過し、寺の方角へ遠ざかった。

屋根を開けると、葉が三十四枚見つかった。奇妙だったのは、その入り方だった。葉は防水シートの下にばらばらに散っているのではなく、茎をすべて寺側へ向け、細長い列になって並んでいた。

まるで、そこを通った跡のようだった。

業者はその日から、葉を処分せず数枚ずつ保管することにした。だが事務所へ戻って工具箱を開けたとき、最初に持ち帰った一枚だけがなくなっていた。

袋はあった。

口も閉じていた。

破れもなかった。

透明な袋の中には、乾いた土の粒が少し残っているだけだった。

やがて異変は、寺に最も近い家まで来た。その家では音がしたにもかかわらず、屋根の下から葉は一枚も見つからなかった。

代わりに、野地板の裏側へ細い緑色の線が残っていた。

公園側の軒から寺側の軒まで、ほぼ真っ直ぐに続いていた。塗料ではない。擦ると青臭い匂いがし、布には薄い緑色が移った。何十枚もの生葉を同じ場所へ強く押しつけながら引きずったような跡だったという。

そこを最後に、住宅からの相談は途絶えた。

音も聞かれなくなった。

それから二か月ほど経った頃、寺の外周フェンスの補修が行われた。住宅地側に面した古い金属フェンスで、上部の横桟が一部腐食していたため、その区間だけ交換することになった。

作業員が古い横桟を切断すると、中から乾いた葉が落ちてきた。

一本や二本ではなかった。

細い金属管の内部いっぱいに、何十枚もの葉が押し込まれていた。入口になる穴は見つからなかった。両端は古い溶接で塞がれており、塗膜の状態から見ても、最近開けられた形跡はなかった。

葉はすべて茶色く乾いていた。

その中に、一枚だけ白い点が二つ付いたものがあった。

屋根業者が最初の家から持ち帰り、袋へ入れた葉だった。

葉柄の近くに補修用マーカーの跡が残っていた。位置も間隔も、作業員は覚えていたという。

誰も、それを持ち帰ろうとはしなかった。

古い横桟は葉ごと処分され、フェンスは新しいものへ交換された。それ以来、住宅地の屋根を何かが横切る音は聞かれていない。

ただ、寺の人によれば、新しいフェンスには一つだけ妙なことがある。

風のない晴れた日の昼過ぎ、ときどき上部の横桟から、乾いた葉が一枚だけ落ちるという。

公園側ではない。

寺の敷地側へ落ちる。

新しい横桟の中は、施工前に空であることを確認している。両端にも蓋があり、葉が入れる隙間はない。

それでも、落ちる。

葉柄を寺の奥へ向けた状態で。

住宅地の屋根を渡っていたものが、あのフェンスで止まったのか。

それとも、あそこから先は、もう屋根がないだけなのか。

寺の人は、落ちた葉を拾わないことにしているそうだ。

午後になれば、フェンスの向こうには、いつもと変わらない家並みと電柱、その奥に公園の雑木林が見える。

そして晴れていれば、その全部がよく見える。

見えすぎるほどに。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

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