土から浮く足跡

写真怪談

住宅地が途切れ、畑や農家の土地が残り始めるあたりに、その場所はある。

道路側の木は何本か伐られていて、太い切り株だけが土の中に残っている。奥には青いネット、その手前にはオレンジ色の柵。「私有地に付 立入禁止」と書かれた看板が、道路からでもよく見えた。

土地の管理を手伝っていた人によると、木を伐ったあとから、土の表面がおかしくなったという。気づいたのは雨上がりの朝だった。切り株の脇に、人の足跡があった。作業靴らしい大きな跡が二つ並び、そこから奥のネットへ向かって続いている。

夜のうちに誰か入ったのだと思った。しかし近づいて、すぐに違うと分かった。足跡が、へこんでいなかった。

靴底の形をした土が、周囲より数ミリ高く盛り上がっていたのである。踵、土踏まず、爪先。靴底の溝まで細かく浮き出していた。足で踏めば土は沈む。なのにそこにあったものは、地面の下から靴底を押し当てられたような形をしていた。

全部で六歩あった。左右交互に並び、切り株のそばから青いネットへ向かっている。最後の一歩だけはネットの直前にあり、その先には何もなかった。管理をしていた人は鍬で跡を崩した。湿った土だったため、表面を均すのは簡単だったという。

その翌朝には、十二歩に増えていた。前日と同じ大きさの靴跡が六歩。その横に、少し小さなものが四歩。さらに、地下足袋のように爪先が分かれた跡が二歩。どれも盛り上がっていた。しかも三列とも、同じ場所へ向かっていた。青いネットの手前。ちょうど「立入禁止」の看板が立っているあたりだった。

悪戯にしては手が込みすぎている。誰かが型を使って土を盛った可能性も考え、夜のあいだ、細い糸を何本か張ることになった。人が通れば必ず切れる高さだった。翌朝、糸は一本も切れていなかった。その下には、十九歩の足跡ができていた。地下足袋の跡も増えていた。

管理をしていた人は、その跡を見てから黙り込んだ。やがて土地の奥にある物置へ行き、古い箱を一つ持ってきた。中に入っていたのは、泥の乾いた地下足袋だった。

「親父が履いてたやつなんです」

その人の父親は十年以上前に亡くなっていた。長くこの土地の手入れをしていた人で、畑仕事だけでなく、周囲の木の剪定や草刈りもほとんど一人でやっていたらしい。地下足袋の右踵には、斜めに削れた部分があった。土から浮き上がっている跡にも、同じ欠け方があった。二つを並べて確かめたが、ほとんど違いがなかったという。

それでも、その人は父親の霊だとは言わなかった。ただ地下足袋を箱へ戻し、「木を切ったからかな」とだけ口にした。道路側に並んでいた木は、父親が生きていた頃には決して伐らせなかったそうだ。理由を尋ねても、「道路から土が見えるのはよくない」としか言わなかったらしい。何がよくないのかは、家族も聞いていなかった。

木を伐ったのは、父親が亡くなってからずいぶん経ったあとだった。枝が隣地へ伸び、台風のたびに折れるようになったため、危険防止のために処分したという。切り株だけは、費用の問題もあってそのまま残した。足跡が出るようになったのは、それからだった。

数日後の夕方、管理を手伝っていた人が一人で土地へ入った。青いネットの一部が妙に垂れているのが見えたためだった。風はほとんどなかった。それなのにネットの中央だけが、内側から道路のほうへ押されていた。人の肩ほどの高さで、一か所。少し離れたところでもう一か所。さらに奥にも一か所。誰かがネットの向こうに並び、身体を預けているように見えたという。

近づくと、一つ目の膨らみが消えた。続いて二つ目も戻った。最後の一つだけが残った。そのすぐ下の土が、ゆっくり持ち上がった。最初に踵ができた。次に土踏まずが細く盛り上がり、最後に爪先が現れた。地下足袋の右足だった。

目の前で、地面から足跡が生えてきた。

反射的に後ずさった瞬間、自分の右足の裏に何かが触れた。石ではない。土の下から、足の裏を押し返された。ぐっと踵が持ち上がり、自分の意思とは関係なく爪先立ちになった。慌てて足を抜くと、靴の下にもう一つ跡ができていた。

今度は地下足袋ではなかった。自分が履いていた作業靴と同じ模様だった。ただし、自分が立っていた場所ではない。半歩前だった。次の一歩を置くはずの場所に、自分の靴跡が先にできていた。

その人は土地から走って出た。門の外へ出て振り返ると、足跡は一つ増えていた。また半歩先だった。さらに一つ。道路へ逃げる本人を追うように、土の上で靴底の形が次々と膨らんでいった。だが、「立入禁止」の看板の前まで来ると止まった。そこから先には、一歩も現れなかった。

翌朝、土地を確認すると、前夜の足跡はすべて残っていた。地下足袋、作業靴、底の平らな長靴。裸足らしい小さな跡も混じっていたという。全部で四十七歩あった。奇妙なのは、そのどれにも出発点がなかったことだった。切り株の周囲の何もない土から突然始まり、少しずつ列になって、道路側へ向かっている。そして最後は必ず、看板の内側で止まっていた。

それ以降、その土地では夜間に作業をしなくなった。足跡は何度均しても戻ったが、木の根を掘り返すことも、切り株を抜くこともしなかったという。やがて数が減り、しばらくすると新しい跡は出なくなった。ただし、完全に収まったわけではなかった。

翌年、土地の前の道路で舗装工事が行われた。古い路面を削り、新しいアスファルトを敷いた翌朝、施工業者から連絡があった。路面に妙な凹凸があるという。土地の前だけだった。

黒く固まったアスファルトの表面に、靴底の模様が浮き出していた。へこんでいるのではない。盛り上がっていた。土地から道路へ出る方向に、全部で八歩。その中に一つだけ、爪先の分かれた地下足袋の跡があった。右踵の一部が、斜めに欠けていたという。

一度削って舗装し直した。次の朝には、十歩になっていた。今度は道路の中央近くまで来ていた。

その後どうなったのか、管理を手伝っていた人は教えてくれなかった。ただ、あの「立入禁止」の看板についてだけは、今も外さないようにしているそうだ。以前は、知らない人が土地へ入らないための看板だと思っていた。

今は違うという。

あれがどちら側に向けた注意なのか。自分にも、もう分からないのだそうだ。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

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