時のひずみ

写真怪談

門のない郭

かつて塀と堀に囲われた旧遊郭の大門跡。今は何もないはずの街角に、古い絵葉書の“印刷の粒”だけが戻ってくる。
写真怪談

三十三人目の客

土日だけ開く人気つけ麺店。その朝、列の人数だけが何度数えても合わなかった――。
写真怪談

握り返す継ぎ目

遅延した満員電車で、連結部分の手すりだけが、人の手の温度を覚えていた。
ウラシリ怪談

1995の空席

金利を決めるはずの会議室で、誰のものでもない椅子だけが、先に着席を待っていたそうです。
ウラシリ怪談

六万軒目の搭乗口

欠航の空港で配られた整理券、その六万枚目だけが、どこにも飛ばない搭乗口を示していたそうです。
写真怪談

針金の四拍

閉館後の音楽ホールで、針金のオーケストラだけが、誰かの帰りを四拍で見送っていた。
写真怪談

空の裏の息

友人たちの笑い声を背にトイレへ向かった夜、見上げた雲は、空ではなく何かの内側だった。
写真怪談

下り道の印

坂を下りきったはずなのに、家だけが町から消えている。壁に残った白い数字は、誰の住所を数えているのか。
写真怪談

出発済の信号

赤信号が点いたのは、列車を止めるためではなく、すでに出発してしまった何かを記録するためだったのかもしれません。
ウラシリ怪談

一皿目の客

国を結ぶはずの夕食会で、招かれていない一皿だけが、次の故郷を待っていたそうです。
写真怪談

七日目の鯉

子供の日を過ぎても神社に残された鯉のぼり――それは、少し遅れてやってくる子を待つためのものでした。
ウラシリ怪談

九条だけが折れている

5万人が去ったあとの広場で、清掃員が見つけたのは、地面の下に折りたたまれていた“第九条”でした。
ウラシリ怪談

十四時の車間

五月五日の上り線、十四時ちょうどに止まった車列で、ある一家は“自分たちの後続車”を見てしまったそうです。
ウラシリ怪談

除かれた朝の便

連休終盤の朝、満席のはずの便にだけ残っていた「除」の席――そこに乗った人たちは、見送られる側ではなかったのかもしれません。
ウラシリ怪談

しょうぶの冠がほどける昼

こどもの日に入るしょうぶ湯。頭に巻けば温まるというその葉が、昼の湯気の中で、別の時代へほどけていきます。
写真怪談

二十時五十六分の隙間

午後8時56分、ホームの時計だけが知っている三分間。電光掲示板が20:59を示したとき、足元の黄色い点字ブロックに残っていたものは――。
写真怪談

定時の遊具

毎日同じ時間、同じ遊具に座って中国語で電話をかける男。近所では見慣れた光景だったはずなのに、誰もいない日にだけ“通話の続き”が始まりました。
晩酌怪談

夜勘定

昼の一杯のはずだったのに、伝票にはまだ来ていないはずの「今夜の自分」の会計が先に印字されていた。