食卓の怪異

写真怪談

家のほうから

帰る家を失った母子が、八月十五日の夕方に嗅いだ懐かしい匂い。帰省とは、本当はどちらが帰ってくることなのでしょう。
写真怪談

未退勤の箸

残業を終えて自宅で食べた、塩焼きそばと一枚のソースカツ。黒い箸を持ち上げた瞬間、退勤したはずの夜が再び記録され始めた。
晩酌怪談

板わさの向かい側

猛暑の昼、久しぶりに入った蕎麦屋での一人飲み。板わさの向かいには誰もいないはずなのに、醤油の小皿には、こちらへ伸びるもう一膳の箸が映っていました。
写真怪談

紙ナプキンの熱

風邪気味の仕事帰り、スタミナ丼を食べたら身体は楽になった。ただ、カウンターの紙ナプキンだけが、代わりに熱を持ちはじめた。
写真怪談

半額の重さ

閉店間際のスーパーで貼られる半額シールは、何を半分にしているのか。
晩酌怪談

つゆ跡の鳥

普通の昼食だったはずの、もりそばとミニ鳥丼。けれど食後のレシートには、紙の内側から出ようとしたような黒い跡が残っていた。
写真怪談

涼味の一口

スーパーの和菓子コーナーで、未開封の甘味だけに残る“ひと口ぶんの曇り”。それは商品ではなく、味そのものを少しずつ減らしていた。
晩酌怪談

菊が焼けるまで

焼き鳥を待つあいだ、マグロブツに添えられた小さな菊だけが、焼き場の方を向きはじめた。
晩酌怪談

酒ケーキの列

商店街の片隅に揺れる「酒ケーキ」ののぼり——試食を断っただけなのに、甘い怪異は律儀に追いかけてくる。
晩酌怪談

醤油だまりの影

居酒屋のカウンター、瓶ビールの空きグラス、醤油を垂らしたタルタル——右隣の席には、食べ終わるまで帰らない薄い人影が座っていた。
写真怪談

空瓶の口数

店の裏に積まれた空瓶は、どうして毎朝一本ずつ増えているのか。数えた者だけが、その“口”の使い道を知ることになる。
晩酌怪談

夜勘定

昼の一杯のはずだったのに、伝票にはまだ来ていないはずの「今夜の自分」の会計が先に印字されていた。
ウラシリ怪談

喉と腹のあいだ

減塩を始めたはずの食卓で、塩だけが誰にも見えない口へ先に運ばれていたそうです。
写真怪談

口移し

苺餡と芋餡のたい焼きを並べた夜だけ、ショーケースの内側には、向かい合った吐息のような曇りが二つ残る。
晩酌怪談

二つ目の輪

一杯のそばを啜るたび、少し遅れてもうひと口ぶんの音が返った。誰もいないはずの卓上には、食べ終わるたびもうひとつの痕跡が残った。
写真怪談

席は窓際

閉店したはずのショーウィンドウが、内側から曇る夜がある——短冊の「本日おすすめ」が、なぜかあなたの席を決めてしまう。
晩酌怪談

塩の数字

“いつもの店”の“いつもの卓上”に、戻ってはいけない年が混ざっていた——。
写真怪談

ジョーカーの席

散らばったトランプの中心に、なぜか“席”ができていた――実家の食卓で起きた、ババ抜きの後の静かな異変。