横へ落ちる道

写真怪談

雨の気配が濃くなった夕方、都内の住宅地を抜ける遊歩道で、奇妙な苦情が続いた。乳母車や自転車を押して入口を通ると、車輪が一瞬だけ横へ引かれるという。路面に傾斜はなく、舗装の沈みも見つからなかったため、区の委託を受けた保守会社が現地を調べることになった。

遊歩道の入口には、茶色い車止めが二列に並んでいた。上部には丸いオレンジ色の反射板があり、その下には魚や草花を描いた淡い緑色の陶板がはめ込まれている。中央に立つ一本だけは絵柄が曖昧で、枯れた葉にも、黒い袋にも、何かの背中にも見えた。

調査に来た保守会社の作業員が、その陶板の前へしゃがんだときだった。頭上から落ちてきた一枚の葉が、地面へ着く直前に角度を変えた。葉は垂直に落ちるのをやめ、横向きに滑るように飛んで、陶板へ平たく貼りついた。

風はなかった。彼が葉を剥がして手を離すと、それは再び陶板へ向かって横に落ちた。試しに十円玉を指先から落とすと、硬貨は地面ではなく陶板へ吸い寄せられ、乾いた音を立てて張りついた。

硬貨を外した跡には、丸いへこみが残った。陶板の表面は割れておらず、釉薬も滑らかなままだったが、指でなぞると硬貨の厚みだけ内側へ沈んでいる。数分後、へこみはゆっくり塞がり、その代わり、判別できない絵柄の中央に銅色の染みが浮かんだ。

翌朝、彼は測量器を持って戻った。路面も車止めも完全に水平だったが、中央の一本へ近づけた下げ振りだけが、糸を斜めに張って陶板の方向を指した。腰に下げていた鍵束も持ち上がり、金属同士を鳴らしながら横へ引かれた。

昼前から小雨が降り始めると、異常はさらに明確になった。上空から落ちてきた雨粒が車止めの周囲だけで横へ曲がり、陶板の表面へ集まっていく。濡れた陶板には水が流れ落ちず、魚の鱗や花びらの輪郭に沿って、細い筋のまま留まり続けた。

中央の陶板だけは、集まった水を吸い込んでいた。表面に触れても濡れていないのに、内部から水を啜るような振動が伝わってくる。やがて路面の小石や砂、虫の抜け殻までが浮き上がり、陶板へ向かって横に降り始めた。

遊歩道は封鎖された。だが張られた規制テープは風と反対の方向へ膨らみ、中央の車止めに巻きついた。重しを載せた三角コーンも一つずつ横倒しになり、底を路面へ擦りながら同じ場所へ集まっていった。

作業員たちは舗装を切り、中央の車止めを撤去しようとした。本来なら基礎部分が地中深くまで埋め込まれているはずだったが、その車止めは地表から七センチほど下で途切れていた。真下には、幅の狭い暗い穴が開いていた。

穴へ懐中電灯を向けても、底は見えなかった。小石を落とすと、落下音は足元からではなく、遊歩道の奥に並ぶ別の車止めの内部から聞こえた。続いて、その隣、そのまた隣へと音が移り、最後には背後にある中央の陶板から、小さく硬い音が返ってきた。

撤去した車止めは、保守会社の倉庫へ運ばれた。床へ横倒しにすると、周囲の工具やボルトが壁と平行に転がり始め、陶板の前で重なった。作業員たちは木箱へ収め、荷締めベルトで固定したが、翌朝には箱だけが元の場所に残され、車止めは倉庫の壁に垂直に立っていた。

床には動かした痕跡がなかった。代わりに壁紙が四角く陥没し、その中心にオレンジ色の丸い跡がついていた。車止めの反射板と同じ高さ、同じ大きさだった。

陶板だけを外すことになり、最初に調査へ来た作業員が、たがねを縁へ差し込んだ。その瞬間、倉庫に置かれていたすべての物が一斉に横へ跳ねた。工具棚が軋み、蛍光灯が天井から斜めに垂れ、彼の身体も陶板へ向かって持ち上がった。

同僚が作業着の背中を掴んだとき、彼の右頬はすでに陶板へ押しつけられていた。硬い表面へぶつかったのではない。頬の皮膚が釉薬の下へゆっくり沈み、耳と指先が、濡れた粘土へ押し込まれるように薄くなっていった。

同僚は彼の腰へロープを回し、フォークリフトで後方へ引いた。身体が陶板から剥がれるとき、湿らせた紙を何枚も重ねて裂くような音がした。血は出なかったが、彼の右耳は縁の凹凸を失い、右手の人差し指と中指からは指紋が消えていた。

陶板には傷一つなかった。だが釉薬の奥には、耳の輪郭と二本分の指紋が淡く浮かんでいた。曖昧だった絵柄も以前より濃くなり、横向きに身体を丸めた人間の上半身のように見えるようになった。

病院では、骨にも内臓にも異常がないと診断された。ただ、彼の体重は調査前より二・七キロ減っていた。食事を取っても体重は戻らず、雨の日になると右半身だけが軽くなり、壁へ向かって浮き上がった。

問題の陶板は厚い鋼板で挟まれ、別の施設へ保管された。遊歩道の装飾付き車止めもすべて撤去され、代わりに簡素な金属製の柵が設置された。それからしばらく、車輪が横へ引かれるという苦情は途絶えた。

三か月後、保管施設の床に長い亀裂が入った。陶板を収めた箱は水平に置かれていたが、その重量は床ではなく、東側の壁へかかっていた。壁の内側では鉄骨が弓なりに曲がり、コンクリートには人の肩幅ほどのくぼみができていた。

陶板の絵柄は、腰の辺りまで伸びていた。釉薬の下には彼の作業着と同じ紺色の繊維が混じり、ファスナーの金属片まで半分ほど埋まっていた。彼の服には破れも欠損もなかったが、右脇の布だけが、光に透かすと陶器のように硬くなっていた。

それ以来、彼は眠る前に両足首をベッドへ固定している。それでも雨の翌朝には身体が壁際へ寄り、右足だけが床から浮いているという。最近、陶板の絵柄には二本の脚が現れ始めた。

その足元には、靴底らしき模様も浮かんでいる。彼が仕事で履いていた安全靴と同じ、右踵だけが斜めに摩耗した模様だそうだ。

現在も、雨の日の遊歩道では奇妙な現象が残っている。路面へ落ちた水が中央付近で横向きに流れ、撤去された車止めの高さまで、何もない空間を這い上がる。そこには時折、オレンジ色の円が一度だけ浮かび、光を当てていない方向へ、遅れて輝くという。

その円が消えたあと、魚や草花を描いた陶板のあった場所から、身体の重いものが横へ倒れるような、低い音が聞こえる。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

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