神輿の後ろの一人分

写真怪談

昼を過ぎると、祭りの通りは人の流れを止めるのが難しいほど混み始めた。正面には屋台が並び、その間を抜けてくる客と、神輿を見ようと路肩へ寄る客が何度もぶつかりそうになる。交差点の手前には警察官が二人配置され、神輿が近づくたびに通路を広げ、立ち止まる人を歩道側へ戻していた。

異変は、人混みそのものに現れた。

肩が触れ合うほど混雑しているのに、神輿の後ろだけ、妙に人の入らない場所があった。広さは大人一人が立てるくらい。誰かが規制しているわけでも、荷物が置かれているわけでもない。それなのに、その場所へ踏み込みそうになった人は、直前でわずかに身体をずらして通り過ぎていった。

避けているという感じでもなかった。前を歩いている人の肩をよける程度の、ごく自然な動きだった。その空間は、神輿から三、四メートルほど離れた後ろをついてきた。

交差点へ入る直前、片方の警察官が腕を伸ばして横から来る人を止めた。神輿が通過するまで十数秒待ってもらうだけの、何度も繰り返してきた誘導だった。

そのとき、右肩へ何かが乗った。

手ではなかった。誰かが肩を掴んだ感触とも違う。太い棒か、固く巻いた縄のようなものを上から押しつけられ、そこへ少しずつ荷重を掛けられている感覚だったという。

警察官は反射的に振り返った。誰もいなかった。すぐ後ろには祭りの見物客がいたが、一歩以上離れている。肩に触れられる距離ではない。相棒の警察官も横に立っていたが、両手は前へ出して人を誘導していた。

それでも重さは消えなかった。神輿が揺れるたび、右肩へ掛かる力も上下した。

わっしょい、と担ぎ手たちの身体が持ち上がる。その瞬間だけ肩が軽くなる。神輿が沈む。次の瞬間、見えない何かが右肩へ食い込み、靴底が地面へ押しつけられる。

三度目に沈んだとき、警察官は思わず膝を曲げた。横にいたもう一人が腕を掴んだ。

「大丈夫ですか」

そう聞かれて、本人は肩を押さえた。重さはもうなかった。神輿は交差点を抜けようとしていた。

その後ろには、まだ一人分の空間があった。

しかも先ほどより近かった。

群衆はその場所だけを避けながら歩いている。誰も空間を見てはいない。誰も立ち止まらない。ただ、人の列がそこへ差しかかるたび、流れる水が杭を避けるように二つへ割れ、通り過ぎるとすぐ元へ戻った。

二人の警察官は、それからその場所を意識して見るようになった。しばらくすると神輿は別の通りへ入って見えなくなり、人混みも少し薄くなった。一人分の空きも消えた。

肩を押された警察官は制服の上から触ってみたが、痛みも腫れもなかった。ただ、反射材の付いた警察用ベストの右肩だけが、少しよれていた。布を引っ張って直そうとしても戻らない。右肩から胸へ斜めに、幅五センチほどの浅い窪みができていた。

何か重いものを長時間担いだあとに残るような形だった。

夕方、神輿が再び同じ通りへ戻ってきた。屋台の前は昼より混雑していた。二人は午前中と同じ位置で誘導を始めたが、神輿が見えてきたところで、どちらも同じものに気づいた。

あった。

神輿の後ろ。

人ひとり分だけ、誰も入らない場所がある。

先ほどより神輿に近い。担ぎ手の最後尾から、せいぜい一メートルほどしか離れていなかった。

その場所が交差点へ差しかかったとき、群衆の中にいた男性が押されてよろけた。足が、ちょうど空いている場所へ踏み込みかけた。

ところが男性の身体は、不自然なところで止まった。何かへ胸をぶつけたように上体だけが後ろへ跳ね、驚いた顔で周囲を見回した。そのまま別の人に押されて横へ流されていったが、前には誰もいなかった。

空いた場所だけが、そのまま進んできた。

警察官は道路側へ半歩出た。自分でも、なぜそうしたのか分からないという。ただ、そこを通してはいけないような気がした。

次の瞬間、右肩が落ちた。

昼間とは比べものにならない重さだった。身体の中まで沈むような圧力がかかり、腰の無線機が太腿へ食い込んだ。肩には、今度こそはっきりと感触があった。

縄だった。

何本もの細い繊維を固く編んだ、太い縄。それが制服もベストも通り越して、皮膚へ直接押しつけられているようだった。

警察官は声を出せなかった。横にいた相棒には、彼の身体が右側だけ急に沈んで見えたという。

同時に、神輿が大きく傾いた。

担ぎ手たちが足を止めた。右後ろだけが落ちたように見えた。しかし誰かが転んだわけではない。担ぎ手たちはすぐ体勢を立て直し、神輿は再び持ち上がった。

その瞬間、警察官の肩から重さが消えた。人混みの中の空白も消えていた。さっきまで確かに一人分だけ開いていた場所へ、見物客が何事もなかったように入り込んでいた。

祭りが終わったあと、交番へ戻った警察官はベストを脱いだ。右肩の皮膚には赤い筋が残っていた。

一本の線ではない。

細い赤みが何本も斜めに交差し、編んだ縄を強く押し当てたような模様になっていた。同僚は、どこかで神輿の縄に触れたのではないかと言った。だが本人は神輿には近づいていない。最も近かったときでも担ぎ手との間には十分な距離があった。

さらに奇妙なことが、ベストを調べたときに分かった。外側には傷がなかった。黄色い反射材にも、紺色の布地にも擦れや汚れはない。

縄の跡は、内側にあった。

裏返すと、肩の裏地だけが細い編み目状に潰れていた。繊維が切れたのではなく、その部分だけを何度も強く圧縮したように平らになっている。右肩から胸へ。ちょうど、見えない縄の感触が走った位置だった。

ベストは再使用せず、装備品の保管棚へ移された。破損理由を書けなかったため、記録上は単に「変形」とされたという。

数日後、祭りの片づけも終わったころ、担当者がそのベストを棚から出した。窪みは消えていなかった。それどころか、少し深くなっていた。誰も着ていないのに、右肩だけが下へ引かれた形になっている。

担当者はハンガーを替えた。平置きにもした。それでも翌朝になると右肩が沈んでいた。

祭りから一か月ほど経つと変化は止まった。警察官の肩に残った赤い跡も、いつの間にか消えた。そのベストだけは、今も処分されずに残っているという。

ただ、翌年。

同じ祭りの日の朝、保管棚を開けた担当者は、ベストの右肩が前日より数センチ低く垂れ下がっているのを見た。持ち上げようとして、手を止めた。

右側だけが、ひどく重かったからだ。

そのころ祭りの通りでは、まだ神輿は出ていなかった。屋台が開き始め、人が少しずつ集まり、警察官たちが規制位置についたばかりだった。

そして神輿が通る予定の道の端には、混雑する前からすでに、人ひとり分だけ、誰も立たない場所があったという。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

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