シャッターが一枚多い

晩酌怪談

その居酒屋は、朝の通勤時間にはいつもシャッターが閉まっている。店先には赤い提灯があり、雨除けなのか透明なビニールを被せたまま、閉店後も吊るされていた。

だから、その朝だけ提灯が歩道に転がっていたのは目についた。

赤い胴を横倒しにして、透明なビニールの端を地面に引きずるような格好だった。シャッターは閉まっている。入口にも隣の建物にも変わったところはない。風で落ちたのだろうと思えば、それで済む程度の光景だった。

その日の帰りには、提灯は元の場所へ戻されていた。

ところが三日ほどして、また落ちていた。

位置までよく似ていたという。提灯の頭がシャッター側に寄り、底が歩道へ向いている。透明なビニールにも目立った裂け目はなかった。

その晩、店に立ち寄った会社員が、店主に何気なくその話をした。店主も気になっていたらしい。最初の日には風だと思ったが、吊り金具にも提灯側の輪にも、外れた理由になるような破損が見当たらなかったという。

念のため、金具は新しいものに交換した。

それでも翌週、提灯はまた地面にあった。

三度目になると、店主は落ちた提灯よりもシャッターのほうを気にするようになった。

提灯を掛けている場所は、シャッターの脇にある。強風でシャッターがたわみ、それが提灯へ当たった可能性も考えたらしい。そこで知り合いの修理業者に見てもらった。

レールにもモーターにも異常はなかった。

ただ、業者がしゃがみ込んでシャッターを眺めているうちに、妙なことを言った。

「これ、一枚多くないですか」

シャッターは横長の金属板を何枚もつないだ構造になっている。その店のものは古く、下から何枚かには擦れや小さなへこみがあった。交換歴も残っていたため、業者は使われている板の枚数をおおよそ把握していた。

数えると、一枚多かった。

もっとも、古い設備だった。過去の修理記録に残っていない交換でもあったのだろうという話になった。問題なのは、その一枚がどれなのか分からなかったことだった。

どの板にも同じ古さがあった。後から足したような継ぎ目もなく、左右の端まできれいにレールへ収まっていた。

業者は確認のため、最下部から三枚の板へ小さくチョークで数字を書いた。

1。

2。

3。

それから何度かシャッターを上げ下げして、数字の並びが変わらないことを確かめた。

翌朝、提灯はまた落ちていた。

店主がシャッターを見たとき、数字はこう並んでいた。

1。

2。

その下に、何も書かれていない一枚。

そして3。

昨日まで接していた「2」と「3」のあいだに、金属板が一枚増えていた。

業者が来るまでシャッターには触れなかった。二人で確認したが、新しい板を差し込んだ形跡はなかった。左右の接合部も正常で、板を途中から入れるには一度シャッター全体をレールから外さなければならない構造だった。

店内側から見ても同じだった。

しかも増えた一枚は、新品ではなかった。

ほかと同じように薄く汚れ、細かな擦り傷まで付いていた。ただ、その傷をどこで見たか、店主には覚えがなかった。

シャッターの全長は、当然一枚分長くなったはずだった。

ところが閉めると、下端は以前と同じ位置で床に着く。上の収納部分にも余分な板が収まる空間などない。それでも開閉は問題なくできた。

翌日の閉店後、店主はチョークを消さず、そのままシャッターを下ろした。

提灯は掛けなかった。

ビニールを被せたまま店内へ運び、カウンターの奥へ置いたそうだ。

朝。

提灯は店の外に転がっていた。

前夜と同じ透明なビニールを被せ、いつものシャッターの前で横になっていた。

店の入口は施錠されたままだった。勝手口も内側から鍵が掛かっていた。店内に入ると、カウンターの奥に提灯はなかった。

そしてシャッターには、また一枚増えていた。

今度は「1」と「2」のあいだだった。

店主はその日の営業を休み、シャッターを丸ごと交換した。

古いシャッターは修理業者が持ち帰った。廃棄する前に板を一枚ずつ確認し、例の数字が書かれた三枚については写真も残したという。

新しいシャッターに替えてから、四日間は何も起こらなかった。

提灯も店内へ置いたままにした。

五日目の朝、店主から修理業者へ電話が入った。

提灯が、また外にあった。

業者が店へ行くと、新品のシャッターの下から四枚目に、一枚だけ古びた板が混じっていた。

そこだけ色が少しくすみ、表面に細かな擦り傷がある。

中央には、白いチョークで数字が残っていた。

「2」

業者はその場で、自分の倉庫へ電話をかけた。

廃棄待ちで置いてあった古いシャッターを数えてもらった。

一枚、足りなかった。

なくなっていたのは、数字の「2」を書いた板だったという。

どうやって外れたのかは分からない。どうやって新しいシャッターへ入ったのかも分からない。

何より、その板を抜くためには左右のレールを外す必要があるのに、新しいシャッターには工具を当てた跡すらなかった。

その店は今も営業している。

ただ、閉店後に提灯を外へ吊るすことはなくなったそうだ。

それでも近所では、ごくまれに朝早く、赤い提灯がシャッターの前に倒れていることがあるという。

そんな日は、店主は提灯を拾う前にシャッターの前へしゃがむ。

横線を、下から一枚ずつ数えるためだ。

最近、その数が交換した時より二枚多くなっている。

二枚とも古びているが、チョークの数字はない。

だから店主には、それがどこから来た板なのか分からない。

ただ一つ分かっているのは、次に提灯が落ちた朝、もう一枚増えていたとしても――今度は古いシャッターから持ってくる板が、もう残っていないということだけだ。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

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