住宅地の中にある、小さな公園の話だ。遊具とベンチのほかには目立ったものもなく、入口近くにステンレス製の分別箱が並んでいる。「もえないゴミ」「ペットボトル」「ビン・カン」と投入口が分かれていて、夜になると街灯の光を鈍く反射していた。
公園の清掃を請け負う作業員は、夜間巡回の際、分別箱の前に二つの白いゴミ袋が置かれているのを見つけた。ひとつは小さく丸く、もうひとつは少し大きい。どちらも口をきつく結ばれており、投入口に入らないから脇へ置いたのだろうと思ったという。
小さいほうを持ち上げたとき、作業員は手を止めた。中で何かが動いた感触があったのに、音がしなかった。空き缶か硬い容器らしいものが袋の内側へぶつかったのが手には伝わったが、ビニールの擦れる音さえ聞こえない。
作業員は試しに袋を軽く揉んだ。白いビニールには細かな皺が寄り、指先にも確かに感触がある。それでも、まったく音がしなかった。少し離れた木では葉が風に擦れ、道路を走る車の音も聞こえていたため、耳の異常ではなかった。
同行していた別の作業員も確かめた。袋から手を離した状態で金属製の火ばさみを開閉すると、カチ、カチ、と普通に鳴る。ところが袋を挟んだ瞬間だけ、金属がビニールへ当たる音が消えた。
不法投棄された袋は、そのまま回収せず中身を確認する決まりになっていた。二人は分別箱の前で小さい袋の結び目をほどいた。中には丸めたレシート、汚れた食品容器、潰れたペットボトル、アルミ缶、濡れたハンドタオルが入っていた。
どれも、珍しいものではなかった。
アルミ缶を取り出し、ステンレス製の分別箱へ軽く当てた。手には金属同士が接触した硬い感触が返ってきたが、音だけがなかった。少し強く叩いても同じだった。試しに分別箱の中から別の空き缶を取り出して同じ場所へぶつけると、今度は甲高い音が公園に響いた。
袋から出した缶だけが、鳴らなかった。
ペットボトルを潰しても、レシートを丸め直しても音はしなかった。ハンドタオルを地面へ落としたときには、布だから当然だろうと二人とも思ったが、その直後、大きいほうの白い袋が少し形を変えた。
誰も触れていないのに、結び目の下がゆっくり内側へへこんだのである。人が息を吸ったときの胸のように、膨らんでいた面が一度だけ沈み、そのまま止まった。
そのころから、公園の音がおかしくなった。
作業員の一人が分別箱の扉を閉めた。勢いよく金属板が戻ったのに、音がしない。もう一度開けて閉じても同じだった。蝶番は動き、扉は枠へ確実にぶつかっている。それでも耳には何も届かなかった。
数メートル先の遊具では、風で揺れていた金属部品の細かな軋みが消えた。植え込みを通り抜ける風も、途中から葉を揺らすだけになった。見れば枝先は動いているのに、そこだけ映像の音声を切ったように静かだったという。
作業員が後ろへ下がった。靴底が舗装を擦った感触はあるのに、足音がしなかった。一歩、二歩と離れるうち、三歩目から突然、普通の靴音が戻った。
振り返ると、大きい袋がさっきより膨らんでいた。
空気が入ったような膨らみ方ではなかった。底のほうに重いものが溜まり、白いビニールが張っている。にもかかわらず、持ち上げると中身が動く感触はなく、袋そのものだけが異様に硬くなっていた。
二人はその袋を開けなかった。代わりに厚手の回収袋を二重に被せ、外側だけを結束帯で閉じた。外側の透明な袋は、作業中ずっと普通にガサガサと鳴っていたという。その内側にある白い袋だけが、一度も音を立てなかった。
回収車へ積み込む直前、火ばさみを地面へ落とした。
金属が舗装へ跳ねた。
音がしたのは、三秒ほど経ってからだった。
しかも足元からではない。回収袋の内側から、硬いものを金属へ打ちつけたような音が一度だけ鳴った。そのあと、ごく小さく、葉の擦れる音、ペットボトルを潰す音、靴底が舗装を歩く音が続いた。
公園には、誰も動いていなかった。
二つの袋は通常の廃棄物として処理されなかった。回収施設へ運ばれたあと、圧縮機へ入れる直前に作業が止められたという。袋へ圧縮板が触れた瞬間、機械そのものは動いているのに、油圧ポンプの作動音だけが数秒間消えたためだった。
最終的に袋は、蓋付きの鋼製容器へ一つずつ入れられた。焼却も破砕もせず、容器の蓋を固定し、倉庫の奥へ置かれた。理由について正式な記録には「内容物不明のため」としか書かれていないそうだ。
公園の分別箱も後日交換された。故障していたわけではないが、あの夜に作業員が何度も叩いた扉だけ、取り外してからも音が戻らなかった。ハンマーで叩けば手には振動が伝わるのに、金属板はほとんど響かなかったという。
板の厚さにも材質にも異常はなかった。ただ、中央に二か所だけ、叩いた振動がほとんど広がらない部分があった。目で見ても変色や傷はない。そこへ指を置き、別の場所を叩くと、振動がその部分を避けるように左右へ分かれて伝わった。
その二枚の金属板は、今も処分されず保管されているらしい。
白い袋を収めた鋼製容器も、同じ倉庫にある。開けないことだけが決められていて、現在まで中身を確認した者はいない。
ただ、倉庫で働く者の間には一つだけ妙な話が残っている。近くで工具を落としたり、鋼製扉を強く閉めたりすると、ごくまれに容器の蓋が数ミリだけ内側へ沈むことがあるという。
そのとき落とした工具は、ちゃんと音を立てる。
だから誰も気にしないことにしている。
数秒後、閉じた容器の中から、まったく同じ音がもう一度聞こえるまでは。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

