撤去済みの灯り

写真怪談

路地の端で、外された蛍光灯の本体が、天井の骨みたいに積まれていた。

蛍光管は抜かれ、白い反射板は折れ曲がり、金属のレールから赤や青や黄色の配線がむき出しになっている。下には古いオレンジ色の布が敷かれ、隣には植木鉢が三つ並んでいた。ビルの改装で出た廃材で、翌朝には業者が引き取りに来るはずだった。

管理会社に勤める知人は、その日の夕方、施錠確認のために現場へ戻った。まだ明るい時間だったのに、路地だけが妙に暗かったという。植木の葉の裏、排水溝のふち、金属の隙間。そこだけ、夜が先に溜まっていた。

近づくと、廃材の中から低い音がした。

ジ、ジ、と古い蛍光灯が点く前のような音だった。もちろん電源はない。配線は切られ、器具は地面に置かれている。それでも白い反射板の一枚が、内側から乳白色に曇りはじめた。

光っているのではなかった。

そこだけ、路地の明るさが抜けていた。蛍光灯の本体の下に、長方形の白い跡が浮き、コンクリートが新品の天井材みたいに滑らかになっている。雨染みも油汚れも、その四角の中だけ消えていた。

知人は反射板に貼られたラベルを見た。型番の横に、手書きで「三階・給湯室」とある。さっきまではなかったはずの文字だった。

気になって三階へ上がると、給湯室のドア横にあった小さな室名札が、きれいに剥がれていた。跡だけが残っている。中へ入ると、天井の蛍光灯は新しいLEDに交換済みだったが、その周囲だけ古い埃の匂いがした。スイッチを入れても、部屋の隅が明るくならない。流し台の上だけが、誰かに見落とされたみたいに暗かった。

翌朝、廃材の山は少し組み変わっていた。

前日はばらばらに重なっていた金属のレールが、整然と同じ方向を向いている。配線は絡まって、平面図のような形を作っていた。赤い線は廊下、青い線は部屋、黄色い線は階段。知人は冗談だと思おうとしたが、そこには管理物件の間取りがそのまま出ていた。

そして、図面にはない小さな四角が一つ足されていた。

そこに白いラベルが貼られていた。

「七〇三 撤去済」

知人の自宅の部屋番号だった。

その夜から、彼の部屋では照明の調子がおかしくなった。電気は点く。けれど、明るくなる場所が少しずつ低くなっていく。初日は天井付近だけが暗かった。次の日は壁の上半分が薄闇に沈んだ。その次の日には、明るさが胸の高さまで下りてきて、顔を上げると自分の部屋が、もう部屋ではなく、どこかの天井裏から見下ろされている空間のように感じられた。

極めつけは、寝る前だった。

蛍光灯のカバーの内側に、小さな排水蓋が映っていたという。部屋に排水蓋などない。だがそれは、あの路地にあった丸い蓋と同じ模様だった。さらにその横に、植木鉢の葉が三枚、逆さまに揺れていた。

廃材はその日の午前中に回収されたと聞かされていた。

知人は管理会社に電話し、引き取り業者へ確認した。担当者は、たしかに全部積み込んだと言った。ただ、一つだけ妙なことがあったらしい。荷台に載せた蛍光灯本体のうち一本が、走行中ずっと内側から曇っていた。倉庫に着いたとき、その曇りの上に、誰かの部屋の天井クロスの継ぎ目が浮いていたという。

今、知人の部屋の照明器具は新しいものに替えてある。

それでも、たまに夜中、天井から細かい白い粉が落ちる。粉は床に散らばらず、長方形にまとまる。ちょうど、外された蛍光灯一本ぶんの形に。

その四角の内側だけ、掃除機をかけても埃が取れない。

屈んで見ると、床ではなく、どこかの古い天井がそこにある。黄ばんだクロス。虫の死骸。外された器具のネジ穴。そして端のほうに、黒いマジックでこう書かれている。

「七〇三 次」

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

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