窓枠の人数

写真怪談

その集会所は、町内会の倉庫と呼んだほうが近かった。

古い木造で、畳の部屋がひとつ。折りたたみ椅子を三脚出せば、もう通路がなくなる。外から見ると、出窓だけが妙に立派だった。淡い青に塗られた木枠は剥げ、ガラスは少し曇っていて、中の様子を見ようとすると、いつも自分の顔と室内の暗がりが重なった。

町内では、月に一度だけそこで回覧板の仕分けをしていた。使うのは自治会長と、班長が二人。三人入ればいっぱいになるので、次の人は外で待つ。そういう決まりでもないのに、誰も四人目として入ろうとはしなかった。

ある年の梅雨前、若い班長がそれを笑った。

「狭いだけでしょ」

そう言って、彼は先に入っていた三人のあとから戸を開けた。だが片足を上げたところで、ぴたりと止まった。中から冷たい風が出てきたのだという。扇風機もない。窓も閉まっている。なのに、膝から下だけが水に浸かったみたいに冷え、彼は靴を脱ぐ前に足を引っ込めた。

室内の三人は、何も感じていなかった。

その日、仕分けを終えて外へ出ると、出窓の下のガラス一枚だけが白く曇っていた。内側から息を吹きかけたような曇りではない。人の指先で拭った跡が、五本、縦に並んでいた。子どもの手にしては長く、大人の手にしては細い。

翌月も同じことが起きた。

三人が入る。外で待つ。用事が終わる。出窓の一枚に指の跡がある。

ただし、跡は前より下にずれていた。まるで、窓の内側に立っていたものが、少し膝を折ったように。

自治会長は古い雑巾で拭いた。曇りは消えたが、木枠の塗装がそこだけ湿って柔らかくなっていた。爪で押すと、青い塗料の下から黒い木肌が浮いた。水漏れかと思い、窓の上も下も調べたが、雨染みはない。

三度目の月、いつも来るはずの班長が一人遅れた。

集会所には自治会長ともう一人だけが入っていた。外には誰もいない。二人で仕分けを始めたが、部屋の奥、出窓の前だけがひどく寒かった。積んであった古い座布団が、音もなく一枚ずつへこんでいく。

一枚目。二枚目。三枚目。

畳の上には、誰も座っていない。

それでも座布団の真ん中だけが沈み、縁がゆっくり持ち上がった。人が正座している形だった。二人は声も出せず、回覧板を抱えたまま立ち尽くした。すると、出窓のガラスが内側から白く曇った。

今度は一枚ではなかった。

小さなガラスの区切りごとに、手形が出た。外から覗く手ではない。中から外へ押しつける手でもない。ガラスの厚みの途中に、指だけが埋まっているような跡だった。十枚、十一枚、十二枚。数えるうちに、窓枠そのものが少しずつ室内へ膨らんでくる。

古い木が軋む音がした。

ぎし、ぎし、と、誰かが壁の中で膝をそろえる音。

遅れて来た班長が戸を開けた瞬間、寒さは消えた。座布団のへこみも戻った。二人は何も言わず、回覧板をまとめ、戸締まりをして帰った。

翌朝、自治会長がもう一度見に行くと、出窓のガラスはすべて透明に戻っていた。

だが、外から見える木枠の一部にだけ、青い塗装が剥がれていた。縦横に区切られた枠の、ちょうど一番下。そこに、爪で削ったような細い線がいくつも残っていた。

線は、数えると四本ずつの組になっていた。

四人目、五人目、六人目、と刻んでいくように。

その集会所は、今も取り壊されていない。町内では相変わらず、三人までしか中に入らない。四人目は外で待つ。誰が決めたのかは知らないが、みんな自然にそうしている。

ただ、雨上がりの午後だけは、出窓の前に立たないほうがいい。

ガラス越しに中を覗くと、狭い部屋の奥に座布団が三枚見える。

そして、その手前の暗がりに、まだ敷かれていない四枚目のへこみだけが、先にできている。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

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